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淡墨桜よ、朱となり舞い上がれ!

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 四〇年前の三月三〇日、それは大輔と紗智子にとって、一つのけじめを付ける日だったのかも知れない。
 大輔はしばらく沈黙していたが、神妙に口を開いた。

「紗智子・・・・・・、俺、頑張って、紗智子の人生を・・・・・・華やかな桜の花のようにするよ」
 それを聞いた紗智子は、そっと大輔に寄り添ってきて囁いた。
「ありがとう、大輔さん。これできっと、私たちは人生を生き抜いて行くための・・・・・・同志になれたのだわ」

「同志?」
 大輔は紗智子から飛び出してきた意外な言葉、同志に驚き、思わず聞き返した。

 しかし紗智子は、さらりと返してくる。
「そうよ、同志よ。学生運動より、もっと波瀾万丈な世界を生き抜いて行くための同志よ」

 大輔は知らなかった。
 ノンポリで初(うぶ)なお嬢さんのはずの紗智子が、恋愛などの甘い感情以上に過激なことを考えていたことを。
 そして、生き抜いた人生の闘争の果てに、朱染めの花吹雪となり大空へと舞い上がって行きたいと言う。

 学生運動に没頭していた大輔。
 しかし、そんな紗智子の言葉の前では、自分がまだまだ子供のように感じられた。

「紗智子、わかった、我々は戦う同志だね。
俺たち二人の人生、今は蕾(つぼみ)だけど、艶(あで)やかに花を咲かせ、朱染めの花吹雪となって、二人で舞い上がって行こう」

「大輔さん、お願いね、淡墨で散って行くことだけは、絶対に嫌よ」
 紗智子がそう念を押してきた。

 大輔はそんな紗智子を強くぎゅっと抱き寄せた。そしてもう覚悟を決めたのか、言い切った。
「紗智子のためだけに、一生戦い抜いて・・・・・・。満開の桜を咲かせ、美しく青空へと、朱となり舞い上がって行けるよう頑張るよ。それを約束する。だから、紗智子さん・・・・・・僕と結婚して下さい」

 紗智子はしばらく沈黙していたが、ぽつりと返事を返してきた。
「謹んでお受けします」

 そしてその後、続けて言う。
「だけど、もう一つお願いがあるの」
「どんな?」
 大輔は聞き返した。

「私たちの初心を忘れないように、一〇年毎の三月三〇日に、この淡墨桜を見に来ない?」
 大輔は紗智子のこんな提案を聞いて、なるほどと思った。
「ああその通りだね、そうしよう」

 大輔はそう返事をしながら、同志の紗智子とともに、新たな人生へ大きな第一歩を踏み出したことを感じるのだった。