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淡墨桜よ、朱となり舞い上がれ!

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 大輔は今もって、紗智子がなぜそんな替え歌を唄ったのかがわからない。多分、紗智子は抱かれても寂しく、大輔に八つ当たりをしてきたのだろう。

 しかし、大輔はまだ若かった。
 ムカッときて、「タカセサチコの場合はあまりにもおばかさん」と唄い直してみた。
 すると紗智子は、ポロポロと大きな涙を流しながら、大輔に歯向かうように言い放ったのだ。

「好きと、生きるということとは別物よ。好きは永遠、生きるは有限なの、だから私は、けじめを付けて生きたいの。おばかさんなんかじゃないわよ」

 大輔は、紗智子がこの言葉で、本当のところ何を言いたいのかがわからなかった。しかし、その場をおさめるために「そうだね」と返した。

 こんなケンカもあったが、大輔はとにかく四月一日からサラリーマンとして、新たな世界へ踏み出して行くことになっていた。
 大輔は過去の学生気分を捨て、新たなスタートを切るための気分一新で、三月三〇日、紗智子を連れて淡墨桜(うすずみざくら)の花見に行った。

「わあ、綺麗だわ」
 紗智子が淡墨桜の白の華厳さに感動の声を上げた。そして独り言のように呟く。
「この桜の散り際って、淡墨色になるのでしょ・・・・・・、ホント悲しくって、切ないわ」

 大輔はそんな紗智子の嘆きに似た言葉を聞いて、聞きかじりの説明をしてみる。
「ああ紗智子、そうだよ。昔、平安時代にね、上野峯雄(かむつけのみねを)っていう歌人が、太政大臣だった藤(ふじ)原(わら)基(もと)経(つね)公の死を悼んで、一首詠んだのだよ」

「ふーん、それってどんな歌なの?」
 紗智子が興味を持ったのか、聞き返してきた。