淡墨桜よ、朱となり舞い上がれ!
「あなたいいわよ・・・・・・、同棲をし始めた頃に戻りましょ。だって、あなたは、私がいなければ淡墨色になって散って行きそうですもの」
「その通りかもな」
大輔は大きく頷いた。
すると紗智子は、大輔に再確認をするように語る。
「ねえ、大輔さん、今から一〇年後の三月三〇日、今度は、あの時から数えて五〇年後になるのだけど、私たちまた一緒に・・・・・・、この桜を見に来れるわよね」
大輔はしばらく黙っていたが、ぼそぼそと答え返す。
「ああきっとね。好きは永遠、生きるは有限だけど・・・・・・。どういうことになろうが、心の中で朱染めの花吹雪が舞ってくれるよ。これ、紗智子との約束だったよね」
そんな大輔の言葉を、紗智子は聞いているのか聞いていないのかわからない。そして紗智子は、花の香を嗅ぎながら、突然小さな声で口ずさみ始める。
フランシーヌの場合は あまりにもおばかさん
フランシーヌの場合は あまりにもさびしい
三月三〇日の日曜日
パリの朝に燃えたいのちひとつ
フランシーヌ
・・・・・・
大輔は紗智子の歌に引きずられて、替え歌を唄ってみる。
タカセサチコの場合は あまりにもおばかさん
ハナキダイスケの場合は あまりにもさびしい
三月三〇日の日曜日
京の朝に燃えたいのち ふたつ
サチコダイスケー
・・・・・・
「ぷっ、あなたそれ何よ・・・・・・。ふざけないでよ」
紗智子は怒っているが、顔は笑っている。
作品名:淡墨桜よ、朱となり舞い上がれ! 作家名:鮎風 遊