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郷愁デート

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私が東急線の蒲田駅に着いた時、広樹はもう、そこにいた。
「おはよう。ごめんね、遅れて。待った?」
 私は精一杯の笑顔を浮かべ、手を振りながら広樹の元へ駆け寄った。広樹も私にすぐ気付き、屈託のない笑顔を返してくれる。
「ぜんぜん。だって約束の時間より、十分も早いじゃないか」
 そう言って笑う、広樹の笑顔が爽やかだった。
「それに俺、待つのって結構好きなんだ。何かこう、ワクワク、ドキドキしてさ」
「ふふっ、面白い人。でも何となくわかるかも。その気持ち」
 私は笑いながら同調した。私も人を待たすくらいなら、自分が待たされる方が好きなタイプだ。
「ところで、沙紀ちゃん。ちゃんと、おめかしはしてこなかったようだね」
「だって、汚れてもいい格好で来いって言ったのは広樹でしょ?」
「うん、そうだよ」
 見れば広樹はジーパンにTシャツだ。私もそう、ジーパンにTシャツを羽織っている。別に示し合わせたわけではない。こんなところまで、フィーリングが合うものかと、自分でも少し照れてしまう。
「ねえ、今日はどこへ行くの?」
「最高のアトラクションだよ」
 その言葉に、私は胸をワクワクさせながら、広樹の腕に自分の腕を絡めた。
 平日には多くのサラリーマンやOLでにぎわう階段も、今日は静かだ。その階段を二人で降りる。
 階下では、暖かい陽だまりが微笑んでいた。まるで、私たちを優しく見つめ、包み込むような太陽の光。
 そんな陽だまりに祝福されながら、私たちは歩いた。

 松原広樹とは、いわゆる合コンで知り合った。
 私の会社のOL三人と、見知らぬ男性が三人。合コンは蒲田のイタリアンレストランで行われた。私たちの職場が蒲田にあるということへの配慮もあったのだろう。
 二人の男はブランド物のスーツでバッチリと身を固め、いかにもエリート風の「おぼっちゃま」だった。
 それに対して、広樹は何と作業服で現れたのだ。しかも彼は、それを「俺の正装だ」と言い張って譲らなかった。
「俺さあ、BMWとベンツ持ってるんだよね。沙紀ちゃん、今度、ドライブどう?」
 背の高いブランド男が私にブランド物の腕時計を見せつけながら語りかけてきた。
「軽じゃダメなの?」
 私はぶっきらぼうにそう返した記憶がある。
「そんな、僕に軽なんて言葉はないのさ。あんなのラジコンみたいなもんだよ」
「私、ラジコンに乗ってるんだけど」
作品名:郷愁デート 作家名:栗原 峰幸