偶然のカデンツァ
遺伝子は運命までも造り上げるのか。
よく晴れた日のこと、私と彼女は街まで買い物に出かけた。
私は彼女に完全に心を開ききっていた。もう、彼女のいない人生など考えられないくらいに。
そしてまた交通事故は起こったのだ。これは偶然か。
気づいたときには、私の視界いっぱいにトラックが激突してきた。
何かに強く突き飛ばされた。か細いロコの腕とは信じられないほどの力だった。振り返ったときには車の下敷きになっている親友の姿があった。
横転に巻き込まれたのだ。私はほとんど悲鳴で彼女の名を呼ぶ。
「私は、あと1分26秒でスクラップします」
至って冷静な口調でロコは言った。
神よ、こんなことあって良いものか。
「嘘よ」
私は言った。「そんなの、嘘だわ」
信じたくない。これ以上の悲劇は、心も体も受け付けられない。
ロコは消えない。私の親友は永遠だ。こんなところでまた別れるなんて。
「大丈夫よ。何度だって直すわ、あなたのこと、何度だって何度だって」
「エルザ」
強い声をあげたのは彼女だった。私の目から一筋の熱い涙が溢れた。ロコの声はモザイクがかかり、腕からショート寸前の火花が飛び散っていたが間違いなく私の名を呼んだのだ。
「どうか私を直さないで下さい」
「どうして?私をまた一人にするの?」
「直しても、それはあなたの求めるロコでも私でもないんです。あなたはまた傷つくだけです。
私は、エルザが大好きだ。あなたは私に命をくれた、友情を、愛を教えてくれた。」
そして力強く私の手を握る。
冷たいはずのそれは、まるで命が流れているように熱く感じられた。
「どうか、私の分も生きて下さい、エルザ」
「いやよ、そんなのいや」
「今まで本当にありがとう」
「お願い、一人にしないで、死なないで、ロコ」
しかし、ロコはそれ以上何も語らなかった。私はただ、名前を叫び続けた。それでもロコは何も語らなかった。
神はどうしてこのような残酷な結末しか与えないのか。まがいものを造り出した罰なのか。
いずれにせよ、死は死だ。
ただ与えられた運命に、呆然とするしかなかった。