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転罰少女と×点少年

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 今度はお袋に目をやる。髪は普段、後ろで野暮ったく、三つ編みに纏めているのだが、これを解くと何処のアジアンビューティーですかと言いたくなるような流れる黒髪が現れる。全体的に丸くて柔らかさを感じさせるくせに、太ってるとは微塵も思わせない(息子の視点で言うとアレだが、出るとこ出てるしな)、バランスのいいプロポーション。目尻や口元、額など諸々に、未だシワが現れないのは、何の真似だと問いただしたい。そういえば、この前晩飯の買い出しに一緒に行って、クラスメイトに会った時「今度の彼女は大学生かよ」と言われたこともあった。
 ……身内の贔屓目とかじゃなく、ホント二人とも、とてもじゃないが四十代には見えねえのである。
 いやいやまったく、両親には感謝してもしきれない。見た目がモノを言うこの世界で、最高の遺伝子環境を整えてくれたのだから。そりゃあ俺のような顔の持ち主や――――
 がらり、と襖が開く。

「おはよー、お父お母さん、おにーちゃん」

 寒のような、可憐な女子も生まれる。
 というわけで、食卓の最後のピースとなる、我が妹さまがご到着。  
「よし、そろったことだし、もういいかな母さん?」
 まったりしすぎると初日から転校生に恥を晒しかねない。
「はいよ遊。アンタの箸」
 お、ありがたい。母さんは家族全員に箸を配ると、いまどき小学生でも言わないようなセリフをのたまうのだった。
「ほら、手、合わせてー」
 パシン、と四つの柏手が居間に響く。幼稚だ、とか思ったりしない。
「いただきます!」
 と、ハイテンションなお袋の声。
「おう、いただきます」
 親父も無邪気にわらって、食事を始める。
「……いただきますー」
 寒は相変わらず朝弱いようである。
 そして、そんな三人を見て最後に挨拶をするのが俺だ。
「ん、いただきます」
 四者四様の、食事のあいさつから兎荷家の一日が始まる。

(2)

 というわけでいつものように朝の時間を過ごし、登校する運びとなったわけだ。学校から家までの道のりについては本当に語ることがない。強いて挙げるなら俺のバイト先があるくらいだった。今日はあのオカマ、従業員に店を任せているようである。最近はこの田舎にもマンションやらが建ち並んで、店が増えてきたっていうし、敵情視察にでも行っているのだろうか。

 それについては後に語るとして、今は学校での話。

 徒歩で学校に通えると登校時刻が遅くなる、という傾向に漏れずに、俺も遅刻一歩手前くらいの時間で教室に入った。よほどの例外が無ければこの生活パターンを変えないのだが、今日はそれが裏目に出てしまった。
 ……転校生を偵察できない。この俺としたことが、抜かったぜ。
「おはよう」
 挨拶もそこそこ、クラスの男子に声をかける。
「なあ、転校生の話、聞いてるか?」
「うん まーな」
「顔は?」
 なにはともあれ、気になるのはそこだ。
「それがまだ見てないんだってさ、誰も」
「誰も……、」
 まだ来てないのだろうか。
「どんな感じだか、前情報はあるか?」
「根掘り葉掘り聞くなぁ……噂だとイギリスから来たとか」
「イギリスねえ」
 ここで金髪さんなどを想像するのは安易過ぎる考えだ。これだけでは、転校生のパーソナルは限定できっこない。
 ここにいても収穫は無さそうかな。
 女子の転校生が来るってことはわかってるんだ。男子が熱心に調べてるだろうから、女子に声をかけたって得られる情報はさしてない。校内を回ってみて、顔見て名前が浮かばない女子を見つけたら、自動的にそいつが転校生、となる。そうだろ?
 そうと決まれば捜索開始だ。
「まあ、わかった。ありがとな」
 さわやかに、それでいて『演じている』っぽさが表に出ないように言って、その男子との会話を打ち切る。ところで今のヤツ、なんていう名前だっけ? 
 ………………………。
 ま、どうでもいい。
 俺は荷物を置くなり、噂の転校生を探そうとした「
 ――ちょっと、待って」しかし、委員長の声に呼び止められた。
「ああ、委員長?」
 初染藍。身長153センチ、体重45キロ、スリーサイズは上から78、57、77(目測だ。多分間違ってない)。我が2-Aのクラス委員長である。性格は物怖じしないお節介、といういかにも委員長気質なタイプだ。
 曲毛がいい意味で目立つ(チャームポイントだな)、ショートカット。水泳をやってるらしく色が抜けている髪。しかし水泳部ではなく、茶道部所属でそこでも部長だ。色々と口うるさくクラスをまとめるその姿が、小型犬のようであると評判。メガネを取ると普段より目が大きく見え、いっそう犬っぽさが増す。まあそういった面を総合評価して、脳内で美少女ランクB+をつけていた。
「どこ行くの?」
 ひそ、と自習しているヤツの邪魔にならないような音量で、初染が声をかける。
「どこって……まあちょっとトイレにでも」
「自習始まってる――から、気、つかってよね」
 『気つかってよね』か。何に対してなんだか。
「今度からはね。じゃ」
 冷たくならない程度に言って、ドアを開けて自習中の教室から抜け出す。
 廊下ですれ違うのは、みんなA組以外の奴らだった。

(3)

 転校生を探すとはいっても、何の手がかりもない。
 ……と思うじゃん?
 実はそうでもない。あとは職員室に行けばいいのだ。転校生が、見知らぬ校舎を自由に動けるわけないからな。もし校内案内されていたとしても、先生に聞けばわかることだ。
「失礼します、先生。朝のうちに配るプリントとかないですか、あと転校生の噂とか」
 はきはき、活気よく言う。挨拶はとりあえずしておくだけで好感度を引き上げる、便利な行動だ。
「ああ、やっぱりね……。おはよう」
 担任の三日村。教科は日本史だ。こう、全体的に個性のない顔つきの中年だ。よくわからないが女子から「かわいい」ともてはやされ、かなり人気のあるヤツである。俺と並ぶくらいだろうか。
「やっぱり、っていうのは?」
「兎荷君が仕事をするときは、生徒会長から無理にさせられてるか、出会いが絡んでるかのどっちかだからね……」
 苦笑いとともにため息を吐かれた。本人に嫌みな意図はないのだろうが、なんとなく不快だ。
「まあ、男子の宿命ですよ。それで、どのクラスに入るかくらい、知ってたりします?」
「うん。そうだね、我らがA組だよ」
 何たる偶然。けっこう楽にいけそうだ。
「それは、ウチの男子は喜びそうですね」
「あなたを含めてね……」
 ちなみに、と三日村は付け加える。
「女子も喜ぶかも知れないね、何というか凛々し系の顔立ちだったから」
「え、会ったんですか?」
「そりゃまあね。転校前に一回も挨拶に来ないなんてことは……まああり得ないわけじゃないけど……」
 三日村はこういう風に、どうでもいいことをいちいち考察するから、面倒だ。
 話の腰を折らないでほしい。
「で、そろそろ始業式はじまりそうですけど、まだ来なくて大丈夫なんでしょうか」
「確か、まだ寮が決まってないとか何とかで。そのあとのHRに合わせる、と連絡があったね」
「ああ、そういうことですか」
「まあもう少しのお預けってことだね」
 それから、とまた何か付け加える。今度は何だ。
作品名:転罰少女と×点少年 作家名:ragy