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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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かみさんとかみそり

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そんな事があって2週間ほどたった。髪も伸びていたが、行こうかどうか迷っていた。
行かなければ彼女の収入が減ることになる。
キスはしたけれど、それほど気にはしていないだろう。客が減るより行った方がいいのに決まっている。
僕は自分勝手に思いこんだ。
店に入ると客はいなかった。
「いらっしゃいませ」
この前と同じ感じであった。僕はほっとした。
別に何も思ってはいないようだ。良かった。
僕は言われる前に椅子に座った。
「髪型はこの前と同じでいいですね」
僕は頷いた。
「今日はお客は来ませんから」
「まだそんな時間ではないでしょう」
「閉店の看板出しました」
彼女はてきぱきとカットを始めた。
そしてシャンプーを終えた。
「顔あたります」
下顎のあたりにかみそりをあてたとき
「今晩デイトしてくれるでしょう」
と彼女は言った。
彼女はかみそりで丁寧に僕の髭を剃ってくれていた。
その心地よさと何処からともなく感じる恐怖感が僕の体を二分していた。
そして彼女の体は僕の体に触れていたのだが、僕はそのことには全く気がつかなかった。
僕の心のどこかに妻への罪悪感があったのかもしれない。
「この間より男前になったみたいよ」

  おわり
作品名:かみさんとかみそり 作家名:吉葉ひろし