Twinkle Tremble Tinseltown 2
奴が管理人に――名前はどうでもいい、興味なんかない――手をかけた理由は、お決まりの快楽由来だと僕は推測する。僕の推測だ。驚いて襲い掛かったっていう性善説に固執したいならそうすればいい。野生の熊だってハイキングしている人間を襲うときは、その大半が敵意じゃなくて恐怖から相手を張り倒すって言うし。けれどパニックに陥った人間はリムジンのホイールキャップで殴りかかるような真似はしても、その後昏倒した男の首に思い切りそれを突き刺して切断しようとはしない。いや、刺さりもしなかったのか。仰向けの体へ跨って、喉仏にホイールキャップを当てても、血と汗で滑る皮膚のお陰で何度も傷んだフローリングに鋼鉄が当たるだけ。結局諦めてダクトテープで手足を縛りつけた後、どうしたか。写真でも撮ろうと思ったか、まさかそんなことは。ちょっと火あぶり位にはしてみようと思ったか、それは僕も否定できない。何故ならその部屋には半分くらい使った跡がある「レッドスナッパー・ダイニング」のマッチが転がっていた。それに、薄暗がりの中転がされて芋虫みたいに跳ねてる男は何となくベトナム人みたいな顔だった。ベトナム人は焼身自殺が好きだって、昔何かのドキュメンタリーで言っていた。
そのうち意識のしっかりしてきた男が、大声で喚き散らしたのは想像に難くない。「たすけてああたすけて」なんて甲高い声を出されたら隣の部屋にも聞こえてしまう。だから窒息寸前になるまでダクトテープを口にべたべた、狂ったみたいに首を振るから一発顔を殴ってから馬乗りになった両膝で男の喉下を締め付けて、二重、三重、四重。何だか芸術的に感じて眼にも、頬にも、終いに手当たり次第貼り付けていった。頚動脈が今にも爆発しそうなくらいぴくぴく脈打ってるのが布越しにも太腿へ感じる。さぞかしいい気分だったろう。人間が殺されそうになったとき、抵抗しようと一番動くのは? 実は腕じゃなくて腰から下。いくら汚いスニーカーが滅茶苦茶に床を蹴っても、上半身に乗り上げた犯人を撃退することはできないのに。その男も、きっと。そんな様子を見せたら、奴が一層興奮を煽られることなんか知りもしないで。火あぶりだけじゃ面白くないから、ガラスでもまぶしてやろうか、包丁はないか。塩酸が欲しい。頭がカッカして、胸がわくわくして、無性に唇の乾きが気になって何度も舌で舐めたくなる、そんな気分になる。
しつこいようだけれど、これはあくまでも仮定の話だ。実際の犯人がどんなことを考えていたかなんて僕は知らない。空想を長々と、無意味だと笑うかもしれない。無意味な生、無意味な死。けれど現実だって、無意味だと思うことから意味のあることを見つけないと、人間は退屈と絶望で死んでしまうに違いない。
その作業過程が快楽って奴で、そういう意味では僕なんか、一級の快楽主義者って言えるかもしれない。
男は助かった。生きようとする努力は無駄じゃなかったってことか。この国は、私立探偵の免許取得に関してもうちょっと規制するべきだと思う。あの暗いブロンドを思い出しただけで吐き気がする。犬みたいに血の匂いを嗅ぎつけてくるその能力は脱帽というほかない。いや、実際に昔は官憲の犬だったらしい。あの手錠なんか、退職して以来返していないんじゃないか、公用の物品の私物化なんて。買う金を払ってるのは一般市民だって言うのに。
ああいう奴は想像力が欠如しているから、平気で人を走っている車から門の前に投げ出したりする。もう一度柵を乗り越えて、服を洗濯籠に投げ込んで、雨樋をよじ登って、トイレに侵入する人間の苦労なんて何も考えちゃいない。途中で窓枠のささくれが思いっきり掌に刺さったりして。掴まれた襟首と一発腹に食らわされたパンチは堪えた。とそいつも思ってるだろう、今頃。
つまらない、本当につまらない。こればかりは無意味でしかない。いくら僕でもそれくらい分かる。
昼間ももう少し巡回の回数を多くしないと、今度は本当の死人が出るかもしれない。これも仮定の話。実際どうだなんて、僕に聞かれても分からない。頭のおかしい人間に、これ以上のことを聞くのは馬鹿だ。こんなところで辛抱強く時間を潰しているくらいなら、もっと建設的なことをすればいい。
なぜなら「かもしれない」なんて言ってられるうちが華で、「今」がやってきた瞬間、気付けばその首にはナイフが突き刺さっているかもしれないのだから。
作品名:Twinkle Tremble Tinseltown 2 作家名:セールス・マン