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Twinkle Tremble Tinseltown 2

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 それはもしかしたらこのようにして起こったのかもしれない。


 まず抜け出すのは簡単、そいつはすごく頭のきれる奴らしいから、いくらでも方法は思いつくだろう。ここはブロードムアやアーカム・アサライムじゃない。


 奴は三階南棟にある職員用トイレにある窓のサッシがガタガタで、5分も力任せに引っ張れば外れるのだということを知っていたらしい。僕だって知っているくらいだから。身を乗り出した真下は裏口の軒。コンクリートのしっかりした造りだ、上手く頭をぶつければまあ、8割方死ねる。そう、何フィートの高さがあるかは分からないが、そんなところから飛び降りるなんて自殺行為だと看護士が小便をしながら喋っているのを聞いたことがある。このご立派な職業に就いた方々は、医療刑務所に入った人間が自殺なんて言葉に怯むと本気で思っているのだ。忌々しいカトリックどもめ。でも忘れないで欲しいのは、レクリエーションルームで涎を垂らしている連中の数倍利口なテッド・バンディですら、更なる刺激を求めて裁判所の二階から身を躍らせたってこと。ちょっと運動、たとえば小さい頃YMCAでサッカーでもやってたら、きっと足首を捻りもせずに上手く着地することができる。


 彼もきっと昼の2時ごろ、チェッカーの相手がいなくなって暇をしたから、ちょっと散歩しようと考えたのだと思う。白いムームーみたいな病院着は目立つから丸めて大便器の後ろにでも押し込んで、下着一枚とスニーカーで窓枠を乗り越える。もちろん知ってのとおり裏口の傍には物干しがあって、ぱりっと糊のきいた看護士の服が干してあるから、後はそれを着て柵を乗り越えるのは容易いことだとはご想像の通り。僕個人の意見としては、もうちょっと有刺鉄線の電流を強くするがいいと思う。あれくらいなら掌は多少焦げるけれど、まあ、耐えられる。

 とはいっても頭のいいそいつだから、病室も町もそんなに変わらないのだと気付くのに時間は掛からなかったんじゃないか。ラガフェルド通りを歩く間ずっとドミノピザの空き箱につけ回されたり、ソフトクリームを食べてる5歳くらいのガキが「世界崩壊の序曲」なんてエンドレスで喚いてたりしたら、普通の人間だってうんざりするに決まってる。だから通りから奥まったところにあるアパートでちょっと休憩しようと考えた。あそこは娼婦が多い。というか、ティンゼルタウンの南には娼婦が多すぎる。フッカーなんて最近は使わないのかも知れないけれど、あいつが言いそうなこの呼び方を僕も採用したい。端的だし、語感がいい。白人っぽい。

 ああいう連中の住むようなアパートについてる鍵は見掛け倒しだから、そいつも最初はそこらへんのパイプでも叩きつけて部屋へお邪魔しようとしたに違いない。実際、一回は壊そうと試みた跡があったとか。でも真昼間からそれは失礼だ、普通に考えて。近所迷惑だし。鍵があるなら、礼儀正しくドアを開けて入ればいいじゃないか。電気メーターの上に鍵があるってことは空室だから、いきなり踏み込んでか弱い女性を驚かせるようなこともない。

 家賃が下がれば下がるほど、住民が部屋に残していく荷物の量は増えるっていうことを恐らく奴も知っていた。何でもその部屋の床には忘れ去られた服と靴が散らばっていたそうだし、家財道具についてるガラスというガラスは全て割られていたそうだし? テレビに放尿してあったとか? よくある話だ。目新しくも何ともない。もっともこれはハシシのせいじゃない、だって万引きできないから。最近の売人は怖い。何か揉め事を起こしても段階を踏んで上の人間が話しを付けに来るんじゃなくて、いきなり売ってる本人が銃を片手になだれ込んでくる。まあ僕だって、そんな仁義ある時代は噂でしか聞いたことがないけれど。


 ピザの箱もさすがに階段をのぼることは無理だったはず。だってあいつには足がない。耳はあるけれど。僕もピザを食べたくなってきた。最後にシカゴ・ピザに行ったのは一体何年前の話か、とにかく包丁を持っていって、それで母さんは前の晩豚肉のブロックを一口大のサイコロ型に切っていた。シーフードピザを一切れ分けて欲しかっただけなのに警察がやってきて、僕に包丁を渡せって言うからそんなことをしたら母さんに怒られるって言い返したらそのビール腹のポリ公はリーを押さえつけて、リーが包丁を振り回したらたまたまポリ公の顔を切って飛び上がった隙に逃げ出したらうっかり何かぬるぬるするものを踏ん付けて転んで結局シカゴ・ピザって赤いペンキで書いてあるショーウィンドーに頭から突っ込んでそれでも這い出して見せるのに店の周りでみんなが驚いていた。その中にはキャメロン叔父さんに似ている人がいたけどキャメロン叔父さんじゃなかった。キャメロン叔父さんの顔は豆鉄砲を食らって驚いて、それから気まずくなって笑いながら心の中では撃った奴に邪悪な仕返しを企むニヒリストな鳩に似ている。そんな奴、乗ってる車がぶつかって炎上爆発して30フィートくらい跳ね上がったらいいって思うのに「バニシング・ポイント」とか「ダイハード」みたく激しく死ねって中々そうはいかない。死んでるかどうか確かめるのにもう一度銃を頭へ撃ちこめばいいっていうけど、それなら最初から頭を狙えばいいのにどうしてわざわざ胸なんか撃つんだろう。ウージーってそんなに命中精度が悪いんだろうか。撃ったことがないから分からない。いや、もしかしたらあるのかもしれないけれど、いちいちこの銃は何だってテキサスレンジャーみたいにこだわったりしない。弾を買うときも拳銃を店へ持って行ってこれに合うのって言えばいい。買い物は効率よくしないと。最近仕入れてるスーパーでマッシュルームが高いって食堂でスープをよそう係の男が言ってたけれど、彼の名前が思い出せない。ジーノだったか、ライバックだったか。ケイシー・アンソニーが出所したとか、世の中は本当に酷いことが多い。何にせよ、よちよち歩きの赤ん坊が死んだっていう事実は事実なんだから。推定無罪だろうが有罪だろうが、検察側の証人の父親……が、どうしてもって言うから僕は結局あれを舐めた。苦かったし、吐きそうになった。頭がくらくらした。3歳の子供になんてことをさせるんだろう。そう、生のままの、ジンなんて。兄さんがイラクへ行く前に行った何て名前かとにかくイタリアっぽいレストランでギムレットを飲んでいたけれど、フィリップ・マーロウじゃあるまいし、さよならを言うのは、少し死ぬこと、いや結局死ぬ気もない。兄さんのことを言ったなんて。どうでもいい。どうせ僕のことなど茶色い毛並みで尻尾が細い小さなネズミくらいにしか思っていない。僕は疎外されている。彼の生活(life)からもしも(if)を抜いて実際に僕(I)が割り込んだら……無理がありすぎる。自分の事で手一杯なのに、これ以上欺瞞(lie)を抱えきれるわけがない。結局僕はこのままここでずっと、いや、ここでずっと、僕は僕の人生(life)を終えるしかない。まるで終身刑(life)。それも悪くない。騒いだって始まらない。それにどうせ。