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しっぽ物語 8.白雪姫

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 スクリーンセイバーすらも消えてしまったモニターなどすっかり忘れ去り、Rは身を乗り出した。据え付けのテーブルが揺れ、すっかり薄まったコーラを波立たせる。
「ネタ元は?」
「いかがわしい連中の間ではもっぱら噂になってるよ。それに、Fは暴行の前科がある。親父がもみ消して示談にしたけど」
「家族ぐるみの隠蔽工作ってことか」
「多分ね」
 水溜りを作るグラス傍を滑ってきたレコーダーに、Oと名乗る青年は軽く身を傾けた。
「余計なことを話されたくないから、あんたのインタビューを拒んでるんだ。事件を目立たせるような真似をして、目撃者でも出てきたら大変だから」
「詳しいな」
 腕を組み、RはまっすぐOを見据えた。
「で、何で俺に情報を流す?」
 頬にまで伸びるサージカル・テープを引っ掻いていた指先が止まり、吊り上げていた口角をまっすぐに伸ばす。
「俺の方にも色々事情があるってこと」
 投げ出していた足が安っぽいタイルを擦りながら、身体の方にひきつけられた。
「あの一族が嫌いなんだ」
 緊張のせいだけではない。固く強張った顔の造作は、一つ一つが別物のように動く。整形手術を受けているのかもしれないと、Rは隠されたレンズの内側に思いを馳せた。
 暫しさ迷っていた瞳が、一度だけぴたりと動きを止める。
「聞きたい?」
泣きだす寸前の子供のように固く閉じられた唇が動く瞬間を、Rは肘の内側に触れた指先にまで神経を張り巡らせて待ち構えた。
「ああ」
ぶつかり合った期待に身を任せ、Rはわざとゆっくり頷いた。
 もうしばらく、Oはカップの渦を見つめたままだった。意図的な焦らしではない。感情が、むずむずと口辺を這っている様が、ありありと感じられた。
「俺、本当はあの“王国”のプリンスになるはずだったんだ」
 寂れたレストランの調度品と化した客たちは、誰も振り向くことなく料理を口に詰め込んでいる。何一つ変わることない沈黙にとうとう緊張を瓦解させ、Oは諦観交じりの声を淀んだ空気に放った。
「信用してなさそうだね。けど、証拠だってある」
 Rが曖昧な笑みを浮かべる前に、醒めたコーヒーに手を触れる。
「俺は、あんたを信頼して話してる」
 伏せた睫でレンズを擦るようにしながら、Oは言った。
「生かすも殺すもあんたしだいってこと。女だけじゃない。関わってる全員の人生が左右される」