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しっぽ物語 8.白雪姫

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 企画を聞いた編集者の顰め面は確かに正鵠を得ていた。『コネもないのに?』けれど、メンフィスのブルース音楽よりは、アトランティック・シティの安ぴかネオンのほうが格段に楽しそうだったし、何よりも目に見えるものは、耳で聞くよりも生き生きとして見える。その内側が、実際は朽ち果てた洞でしかないとしても。

 「ボードウォークの天使」、なかなかいい文句だと、Rは久しぶりに自らを賞賛する気になった。実際に、その女は天使になりかねない。ここ数年、気に入った記事ほど簡単に没にされる。『今更マケインの記事なんてね』代替わりした編集者は彼と一回り近く年が違うにも関わらず、居丈高さだけは嫌になるほど持ち合わせていた。『オバマがノーベル賞を貰ったのに?』同じだけ持ち合わせた自尊心と癇癪で席を蹴飛ばしかけたせいもあり、とてつもない安価で原稿は奪い取られた。今度こそ。いつも通り蠢く第六感が、左胸の奥で小さく疼き、活力を漲らせる。漲るだけ漲って、どこにも発散させる場所がない。代用品の大仰なため息とげっぷを吐き出し、玉の浮き出したグラスを手に取った。

「あんたが新聞記者さん?」
 頭上から落ちてきた声に顔を上げる。喉の奥で膨らんだ炭酸ガスの放出に一瞬顔を顰めたものの、どんぐり眼をぱちぱちと瞬かせるRの顔を覗き込む青年は、ウェイファーラーのサングラス越しに張り詰めた笑みを浮かべた。
「さっき、病院のロビーにいた人だろ」
「どこかで会ったかな」
 断りもなく正面に座りコーヒーを頼む青年の顔から視線を外すこともできず、Rは当惑の声を上げた。
「ホテル関係者?」
「そうなるかもしれないね」
 鼻に貼り付けられた大きな絆創膏と純粋アジア人の風貌に加え、口ぶりまでもがどこか間延びしているものだから、一瞬年端も行かない子供かと勘違いしてしまった。
「頭を殴られて記憶喪失になってる女についてなら、間違ってない、院長の神父さんに聞いてみたらいい」
しかし彼の口から飛び出した言葉は、あくまでも大人らしい、作為に満ちたものだった。
「犯人は弟のFだからな」
 傷だらけのリノリウムを引きずられていたチンピラは、ニヒルさを装おうとして大失敗した笑みを、誇らしげに浮かべていた。




「とんでもない話だな」