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海竜王 霆雷 銀と闇4

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「もう、苛めないでください、西おばあさま。」
「いじめておりません、事実です。ですからね、小竜、おまえも好きになさい。私くしは、そのほうが楽しいです。」
「うんっっ、やってやるぜ。俺、いろんなのと戦って。経験値あげないとさ。親父に敵わないからな。」
「おや、大きく出たね、小竜。おまえの父親は、神仙界最強だ。なかなか敵わないだろうに。」
「ひいじい、そんなのわかんないぜ? 経験値を積めば、そのうち勝つはずだ。」
 何百年修行するつもりだ? と、伯卿は苦笑する。それにつられて、他の竜王も笑い出した。
「それなら、まずは、おまえの兄たちを負かせ。それから、俺たちだ。霆雷、現役の竜王に勝てなければ、深雪には敵わないぞ?」
「あはははは・・・それはいい。まずは、私が相手をしてあげるよ、霆雷。同じ黒竜なら、やりやすいだろう。」
 白竜王と黒竜王が、そう言って煽るので、慌てて、深雪が止める。
「兄上たちっっ、私は、あなたたちに勝てませんよ? 何をおっしゃるんですかっっ。」
「はあ? おまえ、短期決戦なんでもありだったら、確実に、俺らを仕留められるだろ? 深雪。おまえこそ、何を大人しいフリをするんだ? 」
「ほんとだよ、深雪。弱々しいフリをするなんて・・・・兄たちには、お見通しだ。」
 本気で戦ったことはないが、冷静に分析すれば、そういう結果が導き出される。水晶宮の主人だから、後方支援が役目だが、先陣を切っても十分に戦えるだけの能力はある。ただし、短時間という問題があるだけだ。戦うことを好まない性質だから、そこまで本気になることはないが、キレた場合は、別だ。下手をすると水晶宮全域を破壊できる力はあるのだ。
「背の君、ご懸念には及びません。あなた様が戦われる前に、私くしが、向い来るものは叩き伏せますので、ご安心を。」
「父上、私と霆雷も参戦いたしますから、父上は戦う必要はございません。どうぞ、後方でゆるりとお寛ぎくださればよろしいかと思われます。」
 黄龍ニ匹が優雅に微笑みつつ、さらに、恐ろしいことを言う。過去、華梨が参戦したことも数知れずだったりするのだ。その当時は、母親と妻という二匹の黄龍ではあったが。
「親父、ラスボスな? 俺が行くまで、ふんぞりかえってろ。」
 トドメに、小竜だ。これだけの守りがあって、深雪を戦わせるものは皆無と言ってもいい。
「ラスボスって・・・・おまえ・・・」
「だって考えても見ろよ? 親父の前に、叔父さんたちと兄貴たちと美愛とお母さんが立ちはだかるんだぜ? 立派なラスボスじゃんっっ。」
「それだと、おまえ、俺の敵になるぞ? 」
「敵上等っっ。親父を越えるには、親父を負かすしかないからな。・・・あ・・・ひいじいとひいばあは、手出し無用だぞ? 」
 すっかり、小竜は、後見の二人を身内にしている。なんとも勇ましい小竜だ。深雪とは違う性質を内包している。
「ほほほ・・・・小竜、深雪に戦いを挑むのでしたらね、その倍以上の障害があると思いますよ? ねぇ、あなた様? 」
「はははは・・・確かに、そうだろうね。小竜、おまえも、深雪のように守ってくれる相手を作らないと対抗できないだろう。」
「ああ、そうか。・・・うーん、そこからだな。先は長いなあ。」
 うーむ、と、考えている小竜に、深雪は苦笑する。自分は、そんなこと考えたこともなかった。父親を打ち負かすなんて、有り得ないし、兄たちだって、そんなふうに戦いを挑んだことはない。大切にされていたから、何かを返したいとばかり思っていた。自分が幸せであることが、それだと思ってもいた。だから、大切にしてもらった分、大切にしたいと願った。その考えが間違っているわけではない。小竜の考えるものは、まったく別なのだとも思う。力で、守りきることを考えるから、そうなるのだ。性質の違いが、これほどあるとは・・・と、深雪は苦笑して、小竜の額をツンと押した。
「俺、そんなこと考えたこともなかったぞ? 霆雷。」
「うん、親父、ものすっごく優しいもんなっっ。俺も、親父大好きだもん。でも、そのうち、勝つから。」
「・・・すでに負けてる気がする・・・・」
 この迫力は、自分にはない。この力強さが、他のものを惹きつけていくのだろう。いつか、この小竜の許にも、自分とは違うものが集うはずだ。
「ぬぁーに言うんだかっっ。俺は、まだまだだぜ? 」
「うん、まだまだだな。・・・・東おじいさま、西おはあさま、よろしくお願いいたします。すでに、私では太刀打ちができかねます。」
 目の前のふたりに、そうお願いする。自分では教育できないこともあるし、力が足りないこともある。それを補ってくれる相手としては、このふたりは文句のつけようのない相手だ。
「もちろんだよ、深雪。」
「承りますよ、深雪。」
 ふたりは、にこやかに頷く。今度ばかりは、自分の祖父母が力を貸してくれることが有り難いと思った。自分の時のように、非難を浴びても、祖父母は気にしないでいてくれるだろう。いや、非難されることがないように気は配るつもりもしている。
 華梨と二人して、祖父母に叩頭して、後見についての儀礼は終わる。やれやれと、東王父は、小竜を青竜王に返した。
「さて、深雪。東おじいさまと、ゆっくりしよう。」
「ええ、深雪。西おばあさまも一緒です。」
 庭でも散策しましようか? と、夫婦ふたりは、言い合うと、深雪を連れて、庭へと出て行く。ふたりは、振り向いて、華梨に笑いかける。
「しばらく、あなたの背の君をお借りしますよ? 華梨。」
「ようやく独占させてもらえるのは、嬉しいことだ。」
「はい、しばらくでしたら、お貸しいたします。とうぞ、ゆるりと楽しまれてくださいませ。」
 華梨のほうも、軽く頷いて、送り出す。長いこと、公式にしか接しられなかったから、ふたりとも嬉しそうだ。お互い、立場があってできなかったので、了承はしているが、それでも不満はあったのは、よく知っている。





「なあ、一叔父さん、なんで、ひいばあもひいじいも、あんな嬉しそうなの? 親父と会うの、久しぶりなのか? 」
 その事情を知らない小竜は、そう尋ねる。
「久しぶりなんだ。それに、あの方たちは、深雪のことを溺愛なさっているのでな、一緒に過ごせるのが嬉しくて仕方がないのだよ。」
「へぇー、そういや、亀と蛇の怪獣って、いつ現れるんだ? 」
「深雪が書状を送ったら、すぐに現れるだろう。・・・・せいぜい泣かされぬようにしてくれ。」
「え? 親父、勝った相手だろ? 」
 もちろん、勝ったということになる。ただし、それは、深雪だったからだ。おそらく、この小竜なら、容赦なく加重をかけて泣かせてくれるだろう。深雪は、池に叩き落して、そのまま、自分も池に沈んでしまった。力の使いすぎで、そのまんま寝込んだのだ。さすがに、それに攻撃するほど大人気ない相手ではなかったし、力加減をしていたことも、相手は承知していた。だから、負けたということにしてくれたのだ。
作品名:海竜王 霆雷 銀と闇4 作家名:篠義