海竜王 霆雷 銀と闇4
公宮では、竜王たちと、女主人、次期たちが待っていた。跳んでいった小竜を回収しようとはしなかった。みな、雷小僧を直に対面させたほうがいいだろうと思ったからだ。現物を見て、それで判断してもらうのが、一番いいだろうと考えたからだ。
「ようこそ、お越しくださいました、東王父様、西王母様。」
代表して、長が挨拶して、叩頭する。続いて、全員が、同じように叩頭した。
「大仰なことはなさいませんようにね、伯卿殿。お忍びですから。」
東王父が、そう声をかけると、みな、叩頭を解く。その腕に、小竜は、ちゃっかりと居座っていて、東王父の白いヒゲを悪戯している。
「いかがですか? 『水晶宮の小竜』は。」
「ほほほほ・・・・おもしろい小竜だよ。妻に、『得体の知れない怪獣』という素直な感想を口にするんだ。なんておもしろいんだろうね? 伯卿殿。」
全員、おまえは死にたいのか? という目で、小竜を睨むが、相手は気付かない。
「失言です。申し訳ありません。」
「なになに、幼子の素直な言葉だ。気にしなくてもいい。」
いや、気にするよ、それっっ、と、叔卿がツッコミをいれる。神仙界で、最も力のある西王母に、その暴言は恐ろしすぎる。
「事実じゃんっっ。なんか、間違ってるの? 一兄。」
「間違ってるも、何も・・・・霆雷、そういうことは失礼に当たるんだ。おまえも謝ったのかい? 」
小竜の兄も、申し訳ありません、と、深くお辞儀をしてから、末弟に尋ねる。
「ううん。ひいばあは笑ってるだけだ。」
「・・・ひいばあ・・・って・・・」
もうなんていうか、言ってる言葉全てが失礼すぎて、頭痛がしそうな勢いだ。四人の兄と、許婚は、揃って、再び、叩頭する。
「いちいち、謝っていただかなくても結構ですよ。元気があってよいではありませんか。まだ小さいのですから、思うように話していればよいのです。・・・それから、この度の後見については、私くし共に任せていただけますね? 伯卿。」
すでに、後見に収まったつもりの西王母が、そう言うと、案内してきた深雪が、「待ってください。」 と、異を唱えた。
「他にも後見を、と、おっしゃる方がいらっしゃるのです。」
「ああ、深雪。そのことは、気にしなくていい。どうせ、朱雀以外は、本気ではないし、私たちが後見に納まったと報告すれば、文句は言わないだろう。おまえから、その報告の書状を送りなさい。八仙たちは、私が叱っておく。後見ではなくとも、力添えを、と、おまえがねだれば、それで解決する瑣末なことだ。」
ちゃんと、東王父は、その答えを携えてくれていた。八仙たちは、確かに半分、遊びだ。普通、仙人が、どこかの一族の後見なんてやることはないのだ。
「みな、おまえの力になりたいと思っているだけだ。公式に、それを表明しようと思ったまでのこと。だから、私たちだけで後見はよい。」
「東王父様、本当に、それでよいのですか? 」
「逆に、他の誰かを後見にすると、えこひいきだと騒ぐだろう? なにせ、おまえは可愛いからね。」
「そうですよ。異を唱えるものがあれば、私くしが相手をいたします。くくくくく・・・・私くしに文句を吐くことができるのは、おまえと小竜だけです。」
と、力強く西王母は言いおいた。まあ、確かに、そういうことだろう。今回の自薦の多さは、ほぼ深雪への力添えが目的だとは思われる。『水晶宮の小竜』と呼ばれていた頃からの知り合いは、どうしても深雪には甘い。深雪が、「ごめんなさい。東王父様と西王母様に決まりました。」 と、謝れば、それ以上にごねるようなものはいないのも事実だ。
「玄武が文句を言ったら、霆雷、容赦なく叩きのめしていらっしゃい。このひいばあ様が許します。」
「げんぶって何? 」
「亀と蛇の怪獣です。」
「うおっ、それも見てぇーよ、ひいばあ。」
「そのうち、現れますよ。・・・・陸続、焔炎、風雅、碧海、しっかり退治しておきなさい。」
代表的な一族の長に、それはないでしょう、と、焔炎は苦笑する。玄武の長は、ひねくれ者だが、なぜか、深雪には好意的だ。ただし、ひねくれものなので、
好意的ではあっても、普通ではない。確実に、文句を吐きに現れる。
「玄武の長のお怒りは、私が収めますから。西おばあさま、どうぞ、小竜や息子たちを焚きつけるのは、おやめください。」
「おまえは、気が良すぎます。たまには、がつんとやっておしまいなさい。八仙たちも、そうですよ。それから、二郎神もです。」
「・・・おばあさま・・・みなさま、神格のある方たちばかりですが? 」
西王母が名をあげたのは、みな、神格のあるもので、喧嘩していい相手ではない。というか、叩き伏せた場合、問題になるような相手ばかりだ。
「あらあら、おまえは忘れているのかしら? 小さい頃、二郎神の犬を降参させていたではありませんか? それに、玄武だって、確か、あそこの池に叩き落したと、私くしは記憶しておりますよ? 」
「・・・・はあ・・・・」
事実なので、反論は難しい。小さかった深雪も、神仙界のお歴々なんてもののことを知らなかったから、からかわれたら本気で叩きのめしていたのだ。
「じゃあ、俺もやっていいんだよな? 親父。くくくくく・・・・親父より派手にやるぜ、俺は。」、
「・・・霆雷、やったら、その後、しばらく煩いが、それは覚悟してやりなさい。」
そして、暴れた後は、しばらく、その相手に纏わりつかれた。珍しいから、もっとやろうと、さらに派手なことになってもいたし、力尽きて眠り込んだら、心配されて看病されたりもした。今から考えたら、信じられないことをやってたなあ、と、深雪自身が、過去の自分に感心するようなことばかりだ。
「父上? 本当ですか? 」
兄弟を代表して、陸続が尋ねる。浮世離れした父親だが、穏やかに暮らしていたとばかり思っていた。なんせ、幼少時は虚弱体質で、寝込んでいることが多かったと聞いているからだ。
「・・・子供の頃のことですよ、次期様。」
その話を掘り下げるな、と、視線で知らせたが、三男あたりは容赦がない。
「二郎神の犬って・・・・父上? あれを降参って・・・」
「うん、ぶん殴って尻尾持って振り回した。」
さらに、四男も、わくわくとした目で問いかける。
「玄武の長を池に叩き込んだって? 」
「『ちび』『ちび』と煩かったので、持ち上げて急降下させた。だが、怪我はさせない程度に調整はした。」
間違っても、怪我はさせてないぞ、と、父親が涼しい顔で言うので、あんぐりと息子たちは、口を開けた。
「「「「 そんな問題ではないでしょう。」」」」
有り得ないことの羅列に、息子たちは、声を揃えてツッコミをいれる。次期の立場で、それをやったら、種族間問題になりそうなことばかりだ。というか、普通はやらない。
「背の君は、昔から暴れん坊でしたからね。」
「ほほほほ・・・本当に、そうでしたね、華梨。それで寝込むのだから、しょうのない子でした。」
普通は、問題になるのだが、どういうわけか、喧嘩した相手は、おもしろいと気に入ってしまい、寝込むと看病までしていったし、子守りもしていた。ある意味、深雪の性質にメロメロになってしまうという結果だった。今回の後見も、そういうわけで自薦が多かった。
「ようこそ、お越しくださいました、東王父様、西王母様。」
代表して、長が挨拶して、叩頭する。続いて、全員が、同じように叩頭した。
「大仰なことはなさいませんようにね、伯卿殿。お忍びですから。」
東王父が、そう声をかけると、みな、叩頭を解く。その腕に、小竜は、ちゃっかりと居座っていて、東王父の白いヒゲを悪戯している。
「いかがですか? 『水晶宮の小竜』は。」
「ほほほほ・・・・おもしろい小竜だよ。妻に、『得体の知れない怪獣』という素直な感想を口にするんだ。なんておもしろいんだろうね? 伯卿殿。」
全員、おまえは死にたいのか? という目で、小竜を睨むが、相手は気付かない。
「失言です。申し訳ありません。」
「なになに、幼子の素直な言葉だ。気にしなくてもいい。」
いや、気にするよ、それっっ、と、叔卿がツッコミをいれる。神仙界で、最も力のある西王母に、その暴言は恐ろしすぎる。
「事実じゃんっっ。なんか、間違ってるの? 一兄。」
「間違ってるも、何も・・・・霆雷、そういうことは失礼に当たるんだ。おまえも謝ったのかい? 」
小竜の兄も、申し訳ありません、と、深くお辞儀をしてから、末弟に尋ねる。
「ううん。ひいばあは笑ってるだけだ。」
「・・・ひいばあ・・・って・・・」
もうなんていうか、言ってる言葉全てが失礼すぎて、頭痛がしそうな勢いだ。四人の兄と、許婚は、揃って、再び、叩頭する。
「いちいち、謝っていただかなくても結構ですよ。元気があってよいではありませんか。まだ小さいのですから、思うように話していればよいのです。・・・それから、この度の後見については、私くし共に任せていただけますね? 伯卿。」
すでに、後見に収まったつもりの西王母が、そう言うと、案内してきた深雪が、「待ってください。」 と、異を唱えた。
「他にも後見を、と、おっしゃる方がいらっしゃるのです。」
「ああ、深雪。そのことは、気にしなくていい。どうせ、朱雀以外は、本気ではないし、私たちが後見に納まったと報告すれば、文句は言わないだろう。おまえから、その報告の書状を送りなさい。八仙たちは、私が叱っておく。後見ではなくとも、力添えを、と、おまえがねだれば、それで解決する瑣末なことだ。」
ちゃんと、東王父は、その答えを携えてくれていた。八仙たちは、確かに半分、遊びだ。普通、仙人が、どこかの一族の後見なんてやることはないのだ。
「みな、おまえの力になりたいと思っているだけだ。公式に、それを表明しようと思ったまでのこと。だから、私たちだけで後見はよい。」
「東王父様、本当に、それでよいのですか? 」
「逆に、他の誰かを後見にすると、えこひいきだと騒ぐだろう? なにせ、おまえは可愛いからね。」
「そうですよ。異を唱えるものがあれば、私くしが相手をいたします。くくくくく・・・・私くしに文句を吐くことができるのは、おまえと小竜だけです。」
と、力強く西王母は言いおいた。まあ、確かに、そういうことだろう。今回の自薦の多さは、ほぼ深雪への力添えが目的だとは思われる。『水晶宮の小竜』と呼ばれていた頃からの知り合いは、どうしても深雪には甘い。深雪が、「ごめんなさい。東王父様と西王母様に決まりました。」 と、謝れば、それ以上にごねるようなものはいないのも事実だ。
「玄武が文句を言ったら、霆雷、容赦なく叩きのめしていらっしゃい。このひいばあ様が許します。」
「げんぶって何? 」
「亀と蛇の怪獣です。」
「うおっ、それも見てぇーよ、ひいばあ。」
「そのうち、現れますよ。・・・・陸続、焔炎、風雅、碧海、しっかり退治しておきなさい。」
代表的な一族の長に、それはないでしょう、と、焔炎は苦笑する。玄武の長は、ひねくれ者だが、なぜか、深雪には好意的だ。ただし、ひねくれものなので、
好意的ではあっても、普通ではない。確実に、文句を吐きに現れる。
「玄武の長のお怒りは、私が収めますから。西おばあさま、どうぞ、小竜や息子たちを焚きつけるのは、おやめください。」
「おまえは、気が良すぎます。たまには、がつんとやっておしまいなさい。八仙たちも、そうですよ。それから、二郎神もです。」
「・・・おばあさま・・・みなさま、神格のある方たちばかりですが? 」
西王母が名をあげたのは、みな、神格のあるもので、喧嘩していい相手ではない。というか、叩き伏せた場合、問題になるような相手ばかりだ。
「あらあら、おまえは忘れているのかしら? 小さい頃、二郎神の犬を降参させていたではありませんか? それに、玄武だって、確か、あそこの池に叩き落したと、私くしは記憶しておりますよ? 」
「・・・・はあ・・・・」
事実なので、反論は難しい。小さかった深雪も、神仙界のお歴々なんてもののことを知らなかったから、からかわれたら本気で叩きのめしていたのだ。
「じゃあ、俺もやっていいんだよな? 親父。くくくくく・・・・親父より派手にやるぜ、俺は。」、
「・・・霆雷、やったら、その後、しばらく煩いが、それは覚悟してやりなさい。」
そして、暴れた後は、しばらく、その相手に纏わりつかれた。珍しいから、もっとやろうと、さらに派手なことになってもいたし、力尽きて眠り込んだら、心配されて看病されたりもした。今から考えたら、信じられないことをやってたなあ、と、深雪自身が、過去の自分に感心するようなことばかりだ。
「父上? 本当ですか? 」
兄弟を代表して、陸続が尋ねる。浮世離れした父親だが、穏やかに暮らしていたとばかり思っていた。なんせ、幼少時は虚弱体質で、寝込んでいることが多かったと聞いているからだ。
「・・・子供の頃のことですよ、次期様。」
その話を掘り下げるな、と、視線で知らせたが、三男あたりは容赦がない。
「二郎神の犬って・・・・父上? あれを降参って・・・」
「うん、ぶん殴って尻尾持って振り回した。」
さらに、四男も、わくわくとした目で問いかける。
「玄武の長を池に叩き込んだって? 」
「『ちび』『ちび』と煩かったので、持ち上げて急降下させた。だが、怪我はさせない程度に調整はした。」
間違っても、怪我はさせてないぞ、と、父親が涼しい顔で言うので、あんぐりと息子たちは、口を開けた。
「「「「 そんな問題ではないでしょう。」」」」
有り得ないことの羅列に、息子たちは、声を揃えてツッコミをいれる。次期の立場で、それをやったら、種族間問題になりそうなことばかりだ。というか、普通はやらない。
「背の君は、昔から暴れん坊でしたからね。」
「ほほほほ・・・本当に、そうでしたね、華梨。それで寝込むのだから、しょうのない子でした。」
普通は、問題になるのだが、どういうわけか、喧嘩した相手は、おもしろいと気に入ってしまい、寝込むと看病までしていったし、子守りもしていた。ある意味、深雪の性質にメロメロになってしまうという結果だった。今回の後見も、そういうわけで自薦が多かった。
作品名:海竜王 霆雷 銀と闇4 作家名:篠義