妻との再会
「コンビニで何か買おうとしていたんじゃないんですか？」
行先を確認して発車した。
「コンビニはほかにもたくさんありますから……」
「ごめんなさいね」
「暇でしたからありがたいと思っています。ところで、あのコンビニは古いんですか？」
「ああ、あのお店？今年できたのよ。噂ではね、経営者の奥さんの前の旦那さんが行方不明になっていたらしいのね。その人が亡くなっていたことが確認できて、保険金が相当入ったみたいで、そのお金で開業したとかって……噂ですけどね。詳しいことはわからないんですよ。わたしも今年引っ越して来たんです」
自分が死亡したことになっていると聞いても、谷村には他人事という気持ちだ。
「そうですか。経営者の奥さんというのはいわゆる未亡人になってしまったんですね。寂しいでしょうね」
「再婚して、そんなこともないと思いますよ。明るい性格の奥さんよ。お店に居たのが今の旦那さん。息子さんが中学生で、秀才だとか」
「一人息子ですか……」
谷村は自分の息子の顔を見たいとは思わなかった。何しろ全く記憶がないのである。