妻との再会
「乗客の気分を悪くさせて、お金を取るの?」
「わかりました。ご気分を悪くさせて申し訳ございませんでした」
乗務員は左後方のドアを開けた。乗客はシートの上に置いた荷物を持ち、車の外に出ようとしている。
「お忘れ物にお気をつけください。ありがとうございました」
乗客が出ると乗務員はドアを閉めて車を発進させた。「空車」表示を「回送」にした。谷村はナビのピンク色の線を辿って車を走らせた。
二十分後に着いたのは、ありふれたコンビニだった。店内には店長らしい中年男と、アルバイト店員らしい男女一人づつの若者と、数人の買い物客がいる。雑誌の立ち読みをしているのが三人と、商品を探しているらしいのが三人。駐車場には建物の外壁に手押しの台車が立てかけられているのが見え、それに「谷村商店」と書いてあるのが見えた。
三年前まで自分がこの店を経営していたのかも知れないと、谷村は思った。しかし、周囲の街並みを眺めても見覚えがなかった。
歩行者に声をかけられた。
「すみません。回送になってますけど、乗せてもらえませんか?」
中年女性だった。
「あ、どうぞ。寝ぼけて回送にしたままでした」
谷村は表示を空車にしてからドアを開けた。