妻との再会
「そうだ、あの建物に入ってもらいたいわ。ナビは無視して右折でスロープを降りて行ったら、あとは直進するだけよ」
その先百メートル前方の右側には、様々な色彩が溢れていた。パステルカラーのパッチワーク風に彩られたその建築物は、決して悪趣味なものではないのだが「love affair」という名称から察すると、いわゆる「ラブホ」ではないか。
「まさか、あの中に入れなんて云わないでしょうね」
「拒絶するの?三年間も放置プレーをされた身にもなってよ」
「勤務時間中にあんなところにはいったら、即クビになってしまいます。車の外も中も録画されているし、無線のセンターには車の位置と方向が記録されているんです」
「……でも、いいんじゃない?クビにされても。うちで働けばいいんだから」
「やっとこの仕事に慣れてきたところです。やめる気はありません」
「ああ、気分が悪くなって来た。止めて。車を止めてくれない?」
谷村貞道は車を減速させて路肩に停車させた。
「どうしますか?病院に行きますか?」
「もういい。ここで降りる」
「そうですか。じゃあ、料金は八百九十円です」
乗務員は「支払いボタン」「合計ボタン」「領収ボタン」を押した。プリンターから領収書が出た。