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てっしゅう
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「夢の続き」 第三章 二人の旅行

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「そうなんですか!へえ〜若かったんですね。おばあちゃんが話してくれたことは本当だったんだ」
「何か言ってましたの?」
「はい、昔は17で子供を生んだって聞きましたから」
「そうね、田舎では当たり前だったわよね。貴史さんでしたよね。こちらにはいつ来られるのかしら?」
「いつでも構わないのですが、百瀬さんの都合がよろしければと思いまして」
「そう、じゃあ、来週の土日にしましょうか。遠いところから来てくれるのですから、是非泊まっていって下さい。お一人ですか?千鶴子さんも来られるのかしら?」
「おばあちゃんは、しんどいから行けないと言っております。洋子というガールフレンドと行きます。これは母には内緒ですが、構いませんか?」
「あら!ご発展家なのね、ホホホ・・・よろしいですよ。お部屋用意して待っていますから気兼ねなくいらっしゃいね」
「本当ですか!嬉しいです。ではそうさせて頂きます」

貴史は電話を切ってから早速洋子に電話した。
「来週の土曜日に出かけるから用意してろよな。百瀬さんの家で泊めてくれるそうだ。新宿で待ち合わせしよう」
「百瀬さんの家で泊まるの?皆で一緒に寝るのよね」
「部屋を用意してくれるって言ってたよ」
「二人のために?」
「そんな感じだった」
「ねえ、貴史。本気よね、私とのこと」
「はあ?何言ってるんだ。当たり前だろう。じゃあ土曜日にな。遅れるなよ朝早いから・・・8時だぞ」

洋子には連れない貴史の返事だった。

洋子の母親は夫を亡くしてからずっと一人で洋子を育ててきた。小学校六年のときに交通事故で他界した父親のことをずっと大切な思い出として心の中に閉まっていた洋子だったが、貴史を好きになるにつれて男性への想いと重ねるように父親の愛情を感じたいと強く思うようになっていた。

貴史はどちらかというと恵まれた家庭で育っていた。今回の岡谷への旅行も母親から交通費と小遣いを与えてもらえることが当たり前のような感覚でいた。洋子は贅沢をせず母親からの小遣いを貯金してこの夏休みに貴史と旅行したいと思っていたから、準備は出来ていたが決して裕福ではなかった。

洋子は今度の旅行で貴史と結ばれるかも知れないと期待はしていた。しかし、二人きりになった自宅での貴史の態度を見ていると、もしかして何事も起こらないのかも知れないと言う一抹の寂しさも感じていた。自分だけがこんなに好きなんだと思わされる気持ちに腹が立っていた。同じように貴史も感じて欲しかったのだ。

出発日の前日洋子は全てを母親に話した。
「洋子、貴史さんはまじめな人よ。あなたが焦ることはないのよ。気持ちを落ち着けてついてゆけばいいの。お母さんは、貴史さんが一番のお相手だとずっと思ってたのよ」
「おかあさん・・・解ってるのよ。でもこんなに好きになるなんて思わなかったの。貴史の一言一言全てが気になってしまうの」
「そう・・・きっと貴史さんも同じ気持ちよ。男の人だから照れがあって言えないだけ。お互いに子供の頃からずっと仲良くしてきたんでしょ?大丈夫よ。今夜は一緒になるのよね、これ持って行きなさい」
「お母さん・・・ありがとう。許してくれるの?」
「女ですもの、あなたも私も気持ちは同じよ。好きな人と結ばれることは素敵なことよ。でも、貴史さんに負担をかけてはいけないよ。不満も言っちゃいけない。覚えておいてね。ゆっくり時間をかけて愛し合ってゆくことが大切なの」
「うん、大丈夫。私少し焦っていたかも知れない。これはお守りとして持ってゆくわ」
「そうね、洋子、可愛いよ。母親が言うのも変だけど、あなたの笑顔は誰にも負けないほど可愛いから・・・怖い顔にならないようにしなさいね」

貴史が言った「鬼みたい」という言葉を洋子は思い出していた。


新宿駅に洋子は8時少し前に着いた。夏休み最後の旅行に出かける人たちで混み合っていた中央改札の前に貴史はちょうどにやって来た。
「洋子!待たせたな」
「貴史!今来たところよ」
「今切符買っていたんだ。8時30分のあずさに乗る。これキミの分」
「いくらだったの?」
「お金はいいよ。母さんから貰ってきたから」
「いやよ!自分の分は自分で出すから」
「俺が誘ったんだ。任せろよ」
「旅行は私のほうが誘ったのよ。お金は用意してあったから気にしないで」
「恥かかすなよ!黙って言われるとおりにすればいいんだ」
「貴史・・・」

洋子は気を遣ってくれていた貴史を嬉しく思った。

「時間が少しあるから、何か食べるものと飲み物買ってゆこうよ」
「うん、そうしましょう。私が買うから」
「頼むよ」

手を繋いでキヨスクに入って、二人は同じ物を仲良く二つずつ買った。あずさ号は定刻どおりにほぼ満席の状態で新宿駅を出発した。
昭和63年8月27日土曜日午前8時30分。
ソ連のゴルバチョフ書記長のペレストロイカで幕を開け、二日には元気なお姿を見せられた天皇も最後の一般参賀になったこの年も8ヶ月が過ぎようとしていた。

11時過ぎにあずさ号は岡谷に到着した。貴史と洋子は夕方にお邪魔しますと百瀬佳代に連絡をしていたので、それまで諏訪湖見物を楽しもうと街中に出かけた。
「ねえ、いいところね。諏訪湖が見えて、空気もいいし」洋子は繋いだ手にちょっと力を入れてそう言った。
「ああ、そうだな。オルゴール記念館に行こう」
「何それ?」
「世界中のいろんなオルゴールが展示してあって音色も聞けるそうだよ」

岡谷市は精密機械の産業で栄えている町でもあった。時計、計測器などそしてオルゴールもそうであった。

見たことも無いような大きな円盤が取り付けてあるクラシックな機械は古い時代のオルゴールであった。回転する円盤にたくさんの針が付いて共鳴板を鳴らしてゆく。

デモ演奏が終わって、係員の説明を聞いてロマンチックな機械の魅力にとりつかれた二人は、出口で記念に可愛いデザインのオルゴールを一つ買った。貴史が洋子にプレゼントしたのだ。

「ありがとう。記念になるわ。貴史は何か買わないの?」
「俺はいいよ。お前が喜んでくれたから満足だよ」
「うん、今の貴史が好き・・・ずっと優しくしてね」
「俺はいつも優しいぜ」
「私ね、自分があなたに甘えすぎるって思うの。答えがいつも必ず欲しいって。でも、貴史のこと信じられるからもう無理は言わないわ」
「洋子・・・どんなことがあっても俺にはお前だけだよ」
「ありがとう。ねえ?湖でボートに乗ろうよ」
「いいな!足で漕ぐやつなら安心して乗れるかも知れない」
「白鳥のやつね。そうしましょう」

初めはうまく漕げなかった二人だが、息が合うようになって白鳥は思いの方向へ進んでいった。時折涼しい風が吹き抜ける諏訪湖にはもう秋の気配が近づいていると貴史は思った。少し早い時間だけど、佳代の家に電話をして都合を尋ねた。

「片山です。今諏訪湖のボート乗り場に居ます。これから伺ってもいいですか?」
「貴史さんね。待っていたわよ。娘が車で迎えに行くからそこで待っていて頂戴。30分ぐらいで着くからね。名前は美枝(よしえ)っていうの、多分すぐ解ると思うわ」
「はい、待っています。ありがとうございます」