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てっしゅう
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「夢の続き」 第三章 二人の旅行

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約束したとおりに30分ほどで美枝はやって来た。母に聞いていたような高校生の男女をすぐに見つけて声を掛けてくれた。
「片山さんね。百瀬です」
「はい、そうです」
「後ろの席に乗ってください」

「初めて諏訪湖に来ましたがいいところですね」貴史は美枝に話しかけた。
「ええ、この時期はとてもいいですよ。冬は凍ってしまうから厳しいですけどね」
「そうですか!こんなに大きな湖が凍るんですね。すごいなあ」
「そうなのよ。おみわたり(御神渡り)って言ってね、氷が盛り上がって筋が幾つかできるの。とても神秘的よ」
「へえ〜、今度冬に来て見てみたいなあ」
「歓迎しますよ。是非彼女といらっしゃいね」

車は佳代の家に着いた。

「いらっしゃい!」玄関で待っていた佳代は貴史がすぐに解った。そしてじっと見つめるように見ながら、
「あなたは真一郎さんにそっくりね。とても驚いたわ」
「そうですか。おばあちゃんにもそう言われているんです。そんなに似ていますか?」
「ええ、うりふたつよ」
「何故、おじいちゃんのことを知っているのですか?」
「だって、ここで療養して亡くなったのよ。千鶴子さん話さなかった?」
「いいえ、聞いていません。そうだったんですか」
「まあゆっくりとお話しましょう。中に入ってください」

広い玄関と庭のある旧家という感じのする家だった。ひんやりと感じられる家の中は天井が高く、囲炉裏が作ってあり今の季節ふすまを開け放して畳の大広間と言う感じにされていた。

佳代には美枝ともう一人女の子供がいたが、今は松本市へ嫁いでここには居なかった。美枝の子供は男の子と女の子それぞれ一人ずつだったが、長男は東京に就職してそのまま結婚して住んでいた。長女は28歳だったがまだ結婚はしていなかった。

佳代は千鶴子の7歳上になるから今年74歳になる。娘の美枝は今年56歳。美枝は二人の子供がいたので早くに夫を亡くしたが再婚せずに母の佳代と暮らしてきた。夕飯の時間に佳代は家族を紹介してくれた。
「今日は東京から疎開されて終戦までここで暮らしていた千鶴子さんのお孫さんがいらしてくれたの。ご一緒の女性は・・・お友達かしら?」
「佳代さん・・・栗山洋子と言います。同級生で高校二年ですけどお互いに両親も認め合っている仲です」
「じゃあ、ガールフレンド以上ね、貴史さんって言うのよ。あなたたちを迎えに行ったのが長女の美枝、隣が美枝の長女麻里よ。美枝の長男は東京にいるの。今は女だけで暮らしているのよ」

美枝と麻里は改めて貴史たちに挨拶をした。

入浴を済ませて貴史は居間で佳代に話を聞くことにした。洋子も一緒に座っていた。
「貴史さんは立派ね。戦争の話を夏休みの研究にするなんて」
「いえ、広島に行って考えさせられたんですよ。思いつきです。でも、おばあちゃんの話を聞くうちにだんだん強い興味に変わってきました。今日も楽しみにして伺いました」

佳代は貴史の祖父真一郎が帰ってきたことから話し始めた。

昭和19年10月フィリピンレイテ島でアメリカ軍との戦いが始まった。戦力に勝るアメリカ軍の前に敗退を重ね多数の死傷者を出した。事実上アメリカ軍の支配下になったレイテ島から日本軍は拠点をミンダナオ島に移した。この戦いのためにマレーシアから真一郎は海を渡って参戦していた。日本海軍の拠点であったレイテ島に陸軍も加入した形になっていた。

かつて日本軍にフィリピン攻略で苦汁を飲まされたアメリカ軍司令官ダグラスマッカーサーは「I shall return」という言葉どおりにこの作戦に指揮官としての将来をかけて望んでいた。

敗走する日本軍の中に左足を銃で撃たれて歩けない状態になった真一郎がいた。負傷兵の救援に来た航空機に乗ってミンダナオ島から日本に帰国した。

「貴史さん、真一郎さんはね怪我をして戻ってきたの。確か19年の10月終わりごろだったかしら。東京の実家から連絡が来て、千鶴子さんが迎えに行ったのよ。田舎のほうが養生出来るからって言ってね。ここに来たときはかなり酷くて、もう左足は使えなくなっていたわ」
「そう・・・おじいちゃん可哀そう」
「そうよ。みんなで励ましあって不自由になった身体を何とかリハビリで生活が出来るようにしようと努力したの」
「元気になったの?」
「ええ、20年の正月には一緒に初詣に行ったぐらいだから、もう大丈夫とみんな思っていた」
「何故、亡くなったの?おばあちゃんが終戦の前日に死んだって聞かせてくれた」

堪えていた涙を佳代は我慢しきれなくなった。下を向いて手で顔を覆って泣いている佳代の姿に洋子はもらい泣きをした。
「ゴメンなさいね貴史さん。思い出しちゃって・・・」
「いいんですよ。無理に話してくださらなくても。おばあちゃんに帰ってから聞きますから」
「いいのよ。話すから。傷口が化膿してきて悪いバイ菌が入ったのね。熱が下がらなくて、お医者様にも見てもらったけど、今は薬が不足していて治療できないと言われてしまったの」

真一郎は原因不明の感染症にやられてしまった。

「真一郎さんは頑張ったのよ。熱にうなされながらも時折小康状態になってみんなと話しをすることが出来たの。子供の頃の話が多かったけど、千鶴子さんの涙を見る度にね、すまない・・・って泣いていた」

もう洋子は声を上げて泣き出してしまった。

「洋子さん、ありがとう・・・」
「おばさま・・・すみません。私も父を亡くしておりますので思いが重なってしまいました」
「そうでしたの。お辛かったでしょうね。お幾つのときでしたの?」
「はい、小学校六年のときです」
「そう、事故ですか?ご病気だったの?」
「交通事故でした」
「まだお若かったのに残念ね。お母様も女手であなたを育てられたのね・・・大変だったでしょうね。お母様を大切になさってあげてね」
「ありがとうございます。母には感謝しています。今日のことも全て母に話してここに来させていただきました」
「貴史さんと一緒に来ることも承知されたのね?」
「はい、母は貴史さんと私が仲良くすることを応援してくれています。本当に嬉しいです」
「お母様はあなたの思いを強く感じられてらっしゃるのよ。女心がそうさせるのね・・・貴史さん!素敵な方じゃないの。男冥利に尽きるってこのことよ」
「褒めすぎですよ佳代さん。洋子とは幼馴染だったからおばさんも気に入ってくれているだけですよ」
「そんな事ありませんよ!洋子さんのあなたへの思いが自分の事のように切なく感じられるから応援されているのよ。裏切ったりしたら、佳代も許しませんよ」
「おばあちゃんと一緒だ!何でこうなるの?」

聞いていた美枝も麻里もくすっと笑った。いつしか自然に貴史と洋子は手を繋いで身体を寄せていた。佳代も美枝も麻里も、素敵なカップルだと羨ましく思っていた。

「話の続きは明日にしましょう。あなたたちの時間が欲しいでしょうからね」
「佳代さん・・・」
「お部屋は私たちの寝るところから離して用意しましたから遠慮なく使ってくださいね」

にこっと笑顔を見せた佳代の眼差しが貴史には「頑張りなさいよ」と言われたように感じられた。