小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「忘れられない」 第八章 諦めない

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
第八章 諦めない


有紀は夢を見た。手を繋いで輪になって子供たちが遊んでいる。子供になっていた自分が仲間に入れてと近寄ったときに、後ろから声が聞こえた。「有紀ちゃん、連れて行かれるよ。こっちへおいで。私と遊びましょう」振り向くとそこには裕美が居た。
「裕美ちゃん、裕美ちゃんも来れば一緒に遊べるよ」そう言うと、
「私はだめ・・・みんなとは遊べないの。もうすぐ明雄ちゃんも来るから、こっちへ来て遊ぼうよ・・・ね、有紀ちゃん。そちらはだめよ」

しばらくして有紀の身体は動けなくなった。みんなのところへも、裕美のところへも、動けない。
「裕美ちゃん、動けないよ・・・え〜ん、え〜ん・・・」泣き出してしまった。目の前に裕美が立っていた。

「私はもう行かなくちゃ・・・バイバイ、有紀ちゃん。明雄ちゃんと遊んで。じゃあね・・・」そう言うと、すっと消えてしまった。

目が覚めた。
「変な夢を見たわ・・・いやだ、汗びっしょり・・・何時かしら」時計を見た。5時を少し回った時間だった。シャワーを浴びなおして、ベッドに戻ってきた。
「何だったのかしら・・・裕美さん何か言いたかったのかしら」有紀は夢の中の出来事を振り返っていた。
「明雄ちゃんと遊んで・・・って言ってたわ。ひょっとして・・・明雄さんと遊べるってことなのかしら!裕美さん・・・教えて、明雄さんは、助かるの?」

もちろん答えは聞けない。しかし、裕美の言った明雄と一緒に遊んで、という言葉は心の中に刺さっていた。きっと、裕美が天国から救いの言葉を言ってくれたのだと、有紀は考えた。
「希望を捨てちゃだめね。弱気になっていたらダメなんだわ。どんなときも諦めないで前を向いて歩かないと、奇跡にすら出会えないと言う事だわ・・・きっと」

沙織といった女性のことは元気になった後で尋ねてみようと胸に仕舞った。朝日が差し込んで少し休んでいたジョギングを始めようと外に出た。鳥の声が聞こえる。八事山(やごとやま名古屋市内の丘陵地)の自然が有紀には嬉しく感じられた。

軽く朝食を済ませて、午後の面会までの時間をどうしようかと考えていたら、麗子のことを思い出した。携帯から電話を掛けてみる。

「もしもし・・・お久しぶりです。こちらに来ているの」
麗子は驚いたように、
「そうなの。教えてくれれば迎えにいったのに。いま何処から電話しているの?」
「うん、何処なのかしら・・・地下鉄の駅は「塩釜口」って言うんだけど」
「何でそんなところに居るの?こんな時間に。ホテルが近くなの?」
「ホテルは周りには無いよ・・・彼のアパートに居るの」
「えっ?そんな・・・急に何よ、そんなことになっていたの?」
「違うのよ・・・昨日急に入院しちゃったから、世話をしているの。まだ来たばかりよ」
「どうしたの?悪いの・・・何処の病院?」
「あなたの家の側よ。カラオケ喫茶が見えるところ」
「刈谷総合・・・そうだったの。ねえ、見舞いって午後からだったでしょ?昼ごはんまで会わない?刈谷駅まで来てよ」
「うん、わかった・・・じゃあ着替えて出かけるから、9時ぐらいには行けると思うわ」

有紀が駅に着いた時間に麗子は改札口の前にすでに立っていた。
「お待たせ・・・久しぶりね、麗子さん。お会いしたかったわ」
「有紀さん、私もよ・・・あなたは元気そうね」
「ねえ?少し痩せた?そんな気がするけど・・・」
「ええ、あなたと出会ってからずっと運動を続けているのよ。ちょっとかっこよくなったでしょう?」
「はい、ちょっと驚きです。もともと麗子さんはお綺麗だから、磨きがかかったようですわ」
「お世辞が上手ね・・・あなたには勝てないけど、女してなきゃ、って思うようになったことは事実ね。ねえ、どうする?コメダで構わない?」
「コメダ・・・駅前の喫茶店ね。うん、構わないよ」

この時間モーニングサービスで店内は結構混んでいた。たっぷりのホットコーヒーを飲みながら、有紀は話を始めた。

昨日からの出来事を有紀は全部話した。そして、宇佐美医師の宣告も話した。聞き終えて麗子はうつむいてしまった。いつもの元気さが見られなくなった。麗子にとってもその話はショックだったのだろう。

「有紀さん・・・お気の毒ね。せっかく逢えたのに・・・今日逢うのが辛いね。大丈夫?」
「ありがとう・・・何とかね。あの人の顔を見たら、笑顔でいられるか自信が無かったんだけど、でもね、昨日あることがあってから少し自分に踏ん切りがついたの。不思議ね、夢に出てきた人から、明雄さんと仲良くしてね、と言われたことで、きっと助かるんだとそう解釈したの。その人はね、天国にいる私の知り合いの女性なの・・・大切にしていた命を自ら絶ったことで悲しい思いをしたけど、今は心で繋がっているの。これまでずいぶん助けてもらった。今度もまたきっと助けてくれる・・・そう信じているの」
「へえ・・・素敵な話ね。あなたは慕われているのねその方に。きっと見守っていてくれているんだわ。明雄さん、きっと助かるわ。奇跡が起こるのよ・・・移植って言ったわね?私と夫なら抗体検査してもいいよ、いやさせて・・・」
「麗子さん・・・ほんと!嬉しい!感謝するわ。先生に話してみるから、ありがとう」
「ううん、いいのよ。夫は以前輸血で多くの知らない人に命を助けてもらった。ずいぶん昔のことだけどね。よく言っているのよ、いつか自分が恩返し出来ればいいなあ、って。知り合いにも頼んできっと何人か連れてゆくと思うわ」

有紀は話してみるものだと思った。新幹線の車内で知り合った麗子とこんなに深い付き合いが出来るなんて、自分は本当に助けられているんだと改めて強く感じていた。

「明雄さん、こんにちは。遅くなってごめんね」そう言って、ベッド周りのカーテンを引いた。
明雄は・・・泣いていた。うつぶせになって周りに聞かれないようにしているように見えた。
背中をこするようにして有紀は身体を寄せた。しばらくの沈黙の後に、声を嗄らした明雄が有紀の方を見て喋った。

「有紀・・・いままで本当にありがとう・・・やっぱりあの世で逢う運命だったんだなあ」

「何を言っているの。私はまだ元気なのよ。あなただって元気になれるわよ。二人で力合わせれば乗り越えられないことなんて無いのよ!解った?」いつに無く強い口調で子供に諭すように話した。こんな時は母親のように強く優しく言うようにしろと聞いたことがあった。

「ねえ、明雄さん。先生はなんて仰ったの?」
「肝臓ガンだって。それも末期・・・最善を尽くすけど治療の効果が出なかった場合には、余命半年だって・・・」
「ふ〜ん、そこまで仰られたのね。そう・・・」
「悲しくないの?有紀は・・・驚かないの?もしかして・・・聞いていたのか?昨日」
「ごめんなさいね・・・あなたにはどうしても言えなかったの。許して。でも、ずっと考えて、明雄さんは助かるんだって自信が持てたの。本当よ、夢物語を言っているんじゃないの。信じて治療するの。奇跡がきっと起こるから、私の言うこと信じて!明雄さん」