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てっしゅう
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「哀の川」 第八章 夏休み

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「そうだったの・・・わたしは子供が出来ちゃって好きじゃなかったけど結婚したの。姉に辞めなさいって言われたけど、子供中絶出来ないし、したくないし、そのまま結婚したの。主人は初めは優しかったのよ。純一とよく遊んでくれた。バブルが膨らんできて、株や投資で大儲けが始まったとたん、愛情はわたしからお金に移ってしまった。純一も寂しい思いをして暮らしていたから、学校でも友達が出来ずにわたしもどうなるのかって心配してた。直樹さんとの出逢いは、わたし達親子にとって救いだったと今は思うわ。不倫って世間は言うけど、だれがそうさせたの!という問いかけはしてくれないんだよね・・・まだまだ妻なんて地位が低い・・・年下の直樹は全くそういうところが感じられないから、本当に大切にしてくれると信じられるの」
「麻子さん・・・幸せになって下さいよ。直樹はあなたと釣り合いの取れるいい男じゃないけど、気持ちは優しいし、子供好きだから、絶対にいい夫婦になれるよ」

後に偶然とはいえ意外な人物との出会いを生んでしまう。運命の悪戯は誰一人として例外ではなかった。

ジャンボ機はヒースロー空港に到着した。思ったより厳重な警備が敷かれていて、持ち物検査は全員がされた。ボストンバッグを一つずつ持って、直樹と杏子、麻子と純一の順番で税関を通った。係りの役人に質問されたが、杏子はしっかりと返事をして、難なく通過した。空港の外には銃を持った軍隊が警備していた。初めて見る装甲車に、純一は興奮した。

「直樹さん!凄いね、本物の軍隊だよね?装甲車って迫力あるなあ・・・ねえ、戦争してるの?」
「国連軍って言ってアメリカやフランスなどと協力して軍隊を作って、イラクと戦っていたんだよ。終結してもテロとかに用心して警戒は厳重にしているんだよね。だから、通関の所でも、アラブ人は入念に調べられていたよね?ターバン巻いた人、解るよね?」
「うん、頭に白い布だよね・・・なんで巻いてるの?」
「宗教のしきたりかな。女の人は顔を黒い布で隠していただろう?それもしきたりだよ。お坊さんの坊主頭と同じかな」
「なるほど・・・いろんな人がいるんだね、日本にいるとわかんないから勉強になるよ!」
「偉いなあ、純一君は・・・そうだね、夏休みの自由学習のテーマにもってこいだよ。世界の国の人々!っていう感じで調べてみたら。杏子姉さんに手伝ってもらって、特徴とか言語とか絵を描いてまとめると面白いよきっと・・・」
「うん!そうする。杏子姉さん、手伝ってくれる?」
「はい、了解ですよ。純一君の頼みですもの、なんでも協力するわよ」
「わ〜い、宿題一つ出来そうだよ、ママ!」
「良かったわね、純一には頼りになるお兄さんとお姉さんがいるのね」
「直樹さんは・・・お兄さんじゃないよ・・・パパになるんだよね?そう呼んでもいいの?ママ?」

麻子はビックリした。直樹の方を見て、涙を浮かべた。純一は思っていたより素直で考えもしっかりとしていたようだ。直樹は小さい身体をぎゅっと抱きしめ、本当のパパになれるようにがんばるから、応援して!と純一に言葉を返した。

ホテルに着いた四人はロビーで貰った二つの部屋鍵を眺めながら、どう分かれようか話し合った。

「男同士、直樹と純一、麻子と杏子でいいんじゃない?」直樹はそういった。杏子は直樹と一緒でも兄弟だから構わないと付け加えた。初日は、麻子と純一親子、直樹と杏子の兄弟で部屋割りをした。夕食を疲れているから、ホテルで採ることにした。食べなれていない洋食でたくさんは食べられなかったが、お腹が膨れてとりあえずは満足して、部屋に戻った。緯度が高いので、夏でも夜は涼しい。窓を開けて風を入れた。すーっと風が入り込み、長い杏子の髪が揺れていた。

「久しぶりね、直樹とこうして過ごすなんて・・・昔は良く出かけたよね、あなたが高校生の頃、わたしがバイトで稼いだお金で、一泊で広島へ行ったでしょ?覚えてる?」
「ああ、もちろんだよ、ちょっとしたハプニングがあったときだね・・・」
「そう、忘れもしないわ、私がシャワーを浴びているのに、直樹が入ってきて!信じられなかった・・・トイレと一緒になっていたから、仕方なかったけど、あなた、ゲーゲーして・・・アハハ、もどしてたわよね」
「なんか気分が悪くなったんだよね。原爆記念館の光景を思い出してしまって・・・」
「そうだったわね、私ったら、素っ裸であなたの背中擦っていた・・・落ち着いて楽になってから振り返った直樹が、姉さん!裸だよ!って言ったよね」
「うん、ビックリしたよ。丸見えなんだもの!」
「そんな直樹がねえ・・・麻子さんと結婚だもの。しかも女優さんみたいな人と・・・純一君もパパって呼んでくれたし。あなたが幸せになることが本当に嬉しいのよ。頑張らないとね、これから」
「ありがとう、姉さんもいい人探しなよ、まだ若いし、僕が言うのも変だけど、誰よりも綺麗だよ!自信もって生きなきゃ・・・子供は仕方ないよ、姉さんに罪はないし・・・」

杏子は子供が出来ない体質という事が、調べてわかっていた。正確には出来にくい・・・だ。それは直樹以外に言えない事だったが、優しいみんなと仲間になる以上、話さないといけない事でもあった。

翌朝、四人はモーニングを食べ、それぞれに出かける予定を組んだ。直樹と杏子はまず仕事を片付ける。ホテルから杏子が教えられた電話番号へコールした。時間を11時に約束して、クロンダイク社へ向かうことになった。純一と麻子は、地下鉄に乗って大英博物館へ行くことにした。夏休み期間でロンドンの町には日本人が意外と多かった。マックに入ると関西弁が飛び交っていた。やはりよく聞こえるし、独特のイントネーションが耳に飛び込んで来やすいのだろう。

初めて見る大英博物館は麻子と純一を感動に包み込んだ。大航海時代に大英帝国が世界中から集めた宝物が展示してある。半端じゃないほどの展示物に凄いといわざるを得ない感動が味わえる場所だ。

直樹は美津夫の手紙をクロンダイク社の社長に手渡した。信用を貰って、工場内を案内してもらい、新製品を手にとってチェックした。一時間ほど注文に時間を割いて、後は歓談となった。杏子の存在は双方にとって有意義だった。クイーンズイングリッシュは相手にとって、とてもよい印象が感じられたからである。今後は杏子を窓口にして取引の電話やファックスをしようという、話にも発展した。

簡単に昼ご飯を済ませ、夕方にホテルへ戻った。純一と麻子はすでに寛いでいた。直樹の顔を見るなり、純一は近寄ってきた。大英博物館で観てきた事を得意げに話し始めた。直樹はしっかりと聞き役になり、褒めた。今夜はママと一緒でいいよ!と大人の答えを直樹に伝えた。杏子は諭すように、つづきの話はお姉さんに聞かせて!と部屋に誘った。手を振ってバイバイする純一の後姿に、麻子は子供を持つ幸せをかみしめていた。久しぶりに直樹とゆっくり出来る。そう思うと、少し忘れていた、感情が湧き出し、直樹に寄り添った。

「今夜は二人ね・・・久しぶりじゃない?楽しもうね・・・」
「うん、そうだね。二人にとって記念すべき日になるかも知れないし」

そう、この日に妊娠するかも知れないという思いがあったからだ。