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海竜王 霆雷 銀と闇3

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「なら、いいんだ。そっちのじいさんは、人型なんだな。こっちは猫だしさ。・・・親父、交友関係広いよな? 俺も、いろんな知り合い作るぜ。」
 父親の知り合いは、竜だけではない。いろいろな生き物がいる。七百年で、これだけの知り合いを作ったというなら、自分も作ってやる、と、小竜は宣言する。それを聞いて、みな、大笑いする。しかし、長老は、猫と呼ばれるのは不満だったのか、のっそりと西王母の前で屈んで、小竜に問いかける。
「わしは猫ではないぞ? 小竜。西方を守護する白虎じゃ。虎というものを知らないのか? 」
「虎か・・・実物は見たことない。あんた、親父のじいちゃんってことは、俺のひいじいちゃんだよな? 」
「そういうことになるな。」
「虎は、どんな戦闘体型になるんだ? 」
「風を纏うて、風で切り裂く。」
「燃えたりしないのか? 」
「燃えたりしない。わしらの属性は、風を司るものじゃ。」
「うーん、よくわかんないなあ。ひいじいちゃんさ、俺とちょっくら喧嘩してくれよ。」
 その言葉に、深雪は慌てて止める。朱雀の長なら健在だから、そんなおねだりをしてもいい。だが、相手は命数の尽きかけている祖父だ。とんでもない、と、叱ろうとしたら、その祖父に目で止められた。
「一度だけなら、やってやろう。」
「よしっっ、やろう。」
 各種族の戦闘体型というものは、それだけで体力を要するものだ。戦うなんて、命数を無駄にすることだ。
「じい様っっ。」
「深雪、おまえにも見せてしんぜよう。わしの雄姿、その心に刻むが良い。」
 最後に見せるなら、本来の戦闘体型が望ましい。たぶん、それで、この時を渡る時間も尽きるだろう。弱弱しい姿を覚えていられるぐらいなら、派手なほうが白虎には相応しい。
 ふわりと、空へ浮かぶと、白虎の長老の人型は、すうっと消えて、そこに大きな白虎が現れる。ふさふさとした白いヒゲを蓄えた立派な白虎だ。うおっと小竜も、近くへ上昇し、そこで黒竜に変化する。まだ竜本来の神通力はないから、持ち合わせている波動だけが、背後から立ち上る。
 対して、白虎は、周囲を小さな竜巻が起こるほど風が巻いて、その姿を隠している。一声、咆哮すると、その周囲を回っている風が、剣のようになって黒竜を
襲った。バシュッと小気味良い音がして、黒竜の鱗に赤い筋が入った。その風は、さらに加速して、黒竜も包み、ひゅんひゅんと音をさせている。
・・・・・どうじゃ、小竜。これが、白虎の能力じゃ・・・・・
 もう一度、咆哮すると、風は止み、長老は、元の人型に戻った。ふうと息を吐き出して、茫然と浮かんでいる小竜に目をやる。怪我はかすった程度だから、すぐに塞がる。
・・・・俺も見せてやる・・・・
 茫然としていた黒竜も、嘶くと、自身の前に、大きな黒い波動を作り出した。それを上空にめがけて投げつけた。それを、深雪が自身の波動で相殺させる。真っ白な波動が追い駆けて、先を行く黒い波動の玉を消し去った。音もなく消え去ったが、その波動の大きさは、風の神通力と同等の力を含んでいた。
「ほおう、なかなかやりおるわい。」
 怪我を恐れることもなく、黒竜は挑発してきた。好戦的ともいえる態度だが、この宮を支えるには必要なものだ。父親とは違うものを内包しているのは判った。おそらく、将来、この小竜は、その力で水晶宮を支配するだろう。それを導くのが、この気性の優しい父親だというなら、間違った方向に流れることはない。それなら、何も憂うことはなくなる。
「じい様、やりすぎだ。」
 空を見上げていたら、孫が近寄ってきた。心配そうにしているのが、愛しい。ここまで来てよかった。変らずに、そのままの姿で孫が居るのが嬉しかった。
「いや、気分爽快じゃ。実に愉快だよ、深雪。・・・・そろそろ時間だ。これからも、おまえは思うように、願うように先へお行き。わしは、これで暇乞いをするが、幸せにな。」
「・・・ああ・・・ありがとう・・・・」
 今生の別れだというのに、祖父は、とても晴れやかな顔をしていた。最後に逢った時の笑顔と同じものだ。だから、こちらも笑顔で送り出す。ゆっくりと、祖父の姿は、そこから消えていく。ゆるりと手を振った祖父は、ちらりと上空の黒竜を見て、ニヤリと笑った。

・・・・勝ち逃げじゃ、小竜・・・・・

 言葉だけ届けて、姿は溶けた。きしゃあーっっと、黒竜は、嘶くと人型に戻った。
「次回は、絶対に負けないからなっっ。覚えてろっっ、ひいじいっっ。」
 そう空に向かって、小竜が叫ぶので、深雪は、両手で顔を覆った。次回なんてないのだ。もう、とっくに冥界に下りてしまったのだから。
「泣いてはいけない、深雪。」
「あの方は満足なさったのだから、これでよいのです。」
 困った子ね、と、残った祖母と祖父が、ふたりして抱き締めてあやす。大切にされていたことを、五百年もして、これほど実感させられるのは、孫には辛いことだろう。だが、相手は、この結果を望み、それに満足したから、あの笑顔を作った。だから、泣いてはいけない。
「あの方は、これから五百年前のおまえと会って、それから冥界へ下られる。最後まで、思うままにされたのだから、悲しむ必要はないのだよ。」
 トントンと背中を叩いて、もう一人の祖父が静かに諭す。神ではないものには寿命というものがある。だから、別れは必ずもたらされる。両親も、そうだった。最後まで、自分のことを気にかけてくれた。
「俺が、もっと強かったら・・・・こんなことさせなくてもよかったんだ。」
「それ以上に強くならなくてよろしい。おまえは、十分に強いのですからね。ただ、愛しいから最後に逢いたいと願うのです。それが、どういう形であれ、愛されている証拠だと思いなさい。」
 たくさんの愛情に育まれて、深雪は、ここに存在する。その人となりを愛しているものは、泣き顔を見たくない。だから、祖父も祖母も、泣き止んでくれ、と、宥める。
「・・・じいちゃん、ばあちゃん・・・・俺は、あんたらに最後に逢いたくなんかないから・・・」
「あら、薄情なことをお言いだこと? 深雪。心配しなくても、冥界へ下る時には見送りますよ。私くしたちは、おまえより長命で、遺していくことはないのだから。」
「遺されるのは、私たちのほうだ。だが、その時は笑顔で送ってあげるから、泣かないでおくれ、深雪。じいは、おまえの涙だけは苦手なのだ。さあ、これを舐めて機嫌を直しておくれ。」
 東王父は、懐から飴玉を、ふたつ取り出して、ひとつは深雪の口に、ひとつは、小竜の口に放り込んだ。お菓子で釣るのが当たり前になっている東王父は、孫と対面する時は、必ず、甘いものを懐に忍ばせている。
「何味? これ。」
「黒糖だ。深雪の好きな味なのだが、おまえは、どうだね? 小竜。」
「んーーーまあまあ。俺、イチゴ味とかのほうが好き。」
 もごもごと大きな飴玉を転がして、小竜は、次回の希望を口にする。では、次回は、イチゴ味を持参するよ、と、東王父も頷いている。物怖じしない小竜に、東王父は頬を歪める。孫を、妻に任せると、手を広げた。
「抱かせてくれんかね? 小竜。」
「別にいいぜ。じいさんも、俺のひいじいなのか? 」
作品名:海竜王 霆雷 銀と闇3 作家名:篠義