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海竜王 霆雷 銀と闇3

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「俺のじい様が、無謀をやらかして逢いに来てくれたんだっっ。おまえも挨拶ぐらいしやがれっっ、バカ。」
「だって、親父、泣かされてるじゃんっっ。だいたい、なんなんだよっっ、こいつらはっっ。白い猫はいいとして、そこのおばさんなんか、わけわかんない生き物だぞ? 」
「嬉し泣きはいいんだよっっ。てか、おまえ、俺のばあさんにまで難癖つけるなら、俺が相手するぞ? 叩きのめされたいか?」
「ばあさん? この正体不明の生き物が? 敵じゃねぇーのか? すげぇーえぐい姿だぞ? 」
 神仙界で、もっとも力のある神を掴まえて、正体不明の生き物だと豪語するものはいない。
「おまえ、俺でも口にしないことを、いけしゃあしゃあと・・・・一回死んで来いっっ。」
 先ほどより大きな波動で、小竜をぶつけて空へ突き飛ばした。それまで父親が、そんなことをしたことはない。それも、かなり大きな波動だ。逃げる暇すら与えないほどの速度で、これをぶつけられたら、非常にまずいと、小竜も焦って態勢を立て直す。あれを何度もぶつけられたら、怪我では済まない。
「親父っっ、ごめんっっ。もう言わないから、やめろ。」
「うるさいっっ、一度、怪我ぐらいしてみやがれっっ。」
 怒鳴って、それから、白虎の祖父に微笑みかけた。あれが、水晶宮の次期様だよ、と、言うと、祖父も大笑いする。
「銀と漆黒と、姿は違うが、中身は似たようなものだな? 深雪。」
「俺は、あれほど失礼じゃなかったぞ、じいさま。・・・・西ばあちゃん、東じいちゃん、ちょっと躾けて謝らせるから待ってくれ。」
 ひゅいっと姿を、その場から消した。小竜のほうは、どこかに現れて殴られることは判っているから、きょろきょろと周囲を警戒している。
「甘いんだよっっ、おまえはっっ。」
 もちろん、体罰なんて甘いことはない。はるか上空から、大きな波動をお見舞いされて、防御したものの反動で地面にまっ逆さまに叩き落された。
「ぎゃあーーーっっ、ひとごろしーーーーーー」
「人間はやめただろ? 竜殺しが正解だっっ。」
 その加速する身体を、掬い上げるようにして、腕に捕らえて、深雪は急停止した。それから、ぼかっと本気で殴るのも忘れない。
「年上の、それも、俺の身内に悪口叩き込むなら、容赦しねぇーからなっっ。・・・ちゃんと謝れっっ。土下座だ、土下座っっ。」
 さすがに本気で叱られたら、小竜もぴぃーと泣き出した。その小竜を地面に乱暴に降ろして、三人の前に叩頭する。もう一発、殴って同じように叩頭の姿にさせて、一緒に頭を下げさせた。
「ごめん、じいちゃん、ばあちゃん、じいさま、こいつ、あほなんで勘弁してくれ。」
 ぴーぴーと泣いている小竜の頭も、同じように下げさせた。何度か謝ってから立ち上がり、小竜の襟首を掴まえて、白虎の祖父に渡す。
「それが、じいさまが見たがった次期様だ。ものすごい力があるんだが、まだ子供で、こんなだ。でも、竜族には、この強さは必要なものだと、俺は思う。東じいちゃん、西ばあちゃん、こんなのの後見で後悔しないか? まだ取り消し可能だぜ? 」
 深雪は、頭を掻きながら苦笑して、三人を見廻す。まだ、言葉遣いも礼儀も何もない小竜で、失礼すぎて笑うしかない。
「おまえだって、わしと喧嘩して宮をひとつ破壊したではないか。あれよりマシじゃ。・・・小竜、おまえの父親も似たようなものじゃったから気にしなくていい。だいたい、おまえは、生命の危険も顧みず、どれほどのことをしたと思っておるのだ? 深雪。・・・・だが、元気な様子で安心した。とても良い子だ。これなら、わしは心遺りはない。」
 今の動きを見ていれば、孫は元気なのはわかる。それに、さらに元気者の次期様だ。これなら、将来、水晶宮は安定したものとなるだろう。公式でない素の孫を拝めて、心から笑えた。これなら、何も憂うことはない。その瞳は、まっすぐと先を見据えている。
「・・・俺は、こんなに酷かったか? じいさま。」
「酷かっただろう。どこの世界に単独で、敵対する一族に殴りこみをかけるバカがおるというのじゃ? おまえぐらいじゃ。」
「あれは緊急事態だっただけだ。あれからは、やってない。」
「当たり前じゃ、何度もやったら、大馬鹿者と、わしが謗ったわい。」
「え? 親父、殴りこみなんかしたのかよ? かっこいーじゃんっっ。」
 泣いていたはずの小竜は、ぴくっと耳を動かして、ニカーと笑っている。そんな格好のいいものじゃなかったよ、と、父親は、空を見上げた。
「その代わり、再生するまで長い事寝込んだ。その時の記憶もないし、身体も目も壊して大切にしてた友達も亡くしたけどな。・・・・もう二度とやりたくないと思った。」
 遠い目で、頬を歪めた父親の表情に、小竜も、そういうものではないことに気付いた。
「・・・親父・・・・」
「自分が、どれだけ無謀でバカなのか、あの後、よくわかった。あんなことしなければ、桜はずっと生きてたんだ。ずっと一緒に育ったのにさ。」
 その時のことだけは、どうしてだが覚えている。あの一瞬だけしか記憶がないのは、それが酷く心を傷つけた事実だったからだろう。逃げろ、と、最後に鳴いた桜の声だけは忘れられない。
「だから、おまえはやるなよ? 理性だけは、絶対に手放すな。おまえが、本当にキレたら、ここも崩壊するし、俺も無事ではいられないからな、霆雷。」
 今は、まだ押さえ込める。だが、力関係が逆転する日が、いずれやってくる。それまでに、そのことだけは叩き込まなければならない。理性の最後の糸だけは切ってはいけない。切ったら、大切なものを失くしてしまうからだ。
「深雪、桜は幸せだったと思っておるはずだ。おまえを守ったのだからな。だから、気に病むことはない。・・・・いずれにしろ、桜は、おまえが成人するまでの寿命じゃった。それが、少しばかり早くなっただけじゃ。」
 この祖父が、与えてくれた最初の友達だった。小さくて一緒に育った。それまで手にしていなかったから、余計に大切だったのだ。守りの猫であるから、その役目を果たしたのだ、と、祖父は、そう以前にも慰めてくれた。
「わかってるけど、遣り切れないものがあるんだ。」
「相変わらず、そういうところは優しいままだ。」
「うるせぇーな、じいさま。それ以上言うなっっ。」
 過去の情けない話なんて、霆雷に聞かせたくない。だから、白虎の祖父を睨みつけた。
「ほほほほほ・・・・小竜、おまえの父親はね、とにかく、何をやるかわからない小竜でね。」
「ああ、もう、楽しかったね、あなた様。深雪は、人見知りが激しくて、私が抱き上げたら泣いていた。」
 そして、その過去を白虎の長老よりも知っているふたりが会話に加わってくる。長老から小竜を引き取ると、西王母は、まじまじと、その小竜の顔を覗きこむ。
「私くしが怖いですか? 小竜。」
「ううん、怖くはない。・・・・特撮の怪獣より凄いってぇーのが驚きなだけだ。あんたは、親父の敵じゃないんだな? 」
「ええ、ここにいるものは、みな、おまえの父親のためなら、喜んで力を貸すものばかりですよ、小竜。もし、深雪に害なすものがあれば、私くしが叩き伏せてさしあげます。」
作品名:海竜王 霆雷 銀と闇3 作家名:篠義