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海竜王 霆雷 銀と闇3

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『顔見せ』の直前に、噂されていた後見は、水晶宮へ、お忍びで現れた。こっそりと、接見の間での『顔見せ』を見学して、それから、孫の私宮の庭へと移動した。孫の私宮は、水晶宮の外れにあり、他のものが出入りするには都合がいい。そして、孫も、他のものの気配があると、心が休まらないと、ここへの出入りは制限させているから、こっそり隠れるにも都合がいいからだ。
「あなた様、これから、少し懐かしい顔がご覧になれますよ。時を渡って白虎の長老が参ります。」
 西王母は、過去の自分が送った相手を、把握している。この時間に現れるように、今の自分が調整した。孫と、その次代の顔を見せていただきたいという願いに、この時間を選んだからだ。
「ほおう、あれの未練は、深雪でしたか。」
「ええ、あの子が立派な主人として次代と並んでいるところを見たいと申しました。」
 その言葉に、東王父も微笑む。自分たちは、永遠に近い時間を生きているから、その程度の時間は、僅かのものだが、白虎の長老には長い時間になるからだ。些細な事柄だが、確かに拝みたい瞬間だろうと納得もする。小さくてひ弱だった深雪が、立派な主人として次代と並んでいる瞬間というのは、心を温かくする。
「私も、この瞬間が愛しいと思うよ、あなた様。あの子は、その気性のままに大きくなった。あれのようで、とても嬉しかった。」
「ええ、私くしも主人となった時には、涙が出るほど嬉しく感じました。」
 新しい水晶宮の主人に登極した時は、本当に歓喜した。小さくて、何度も危険な目に遭ってきた過去を知っているから、その姿で、そこにあることが嬉しかった。それを目に出来ないのは、確かに心遣りとなることだろう。だから、過去の自分は、白虎の長老の願いを聞き届けた。
 二人して、その話をして、次代の小竜についても確認していたら、空から孫がふわりと現れた。
「東おじいさま、西おばあさま、みなが待っております。どうぞ、内へ。」
 次代との顔合わせのために、公宮への案内に現れた孫に、しばしの時間を乞うことにした。
「深雪、少し、私くしに時間をください。どうしても、この場で、おまえに逢わせたい方がいらっしゃるのです。」
「はい、それは構いませんが、どちら様ですか? 」
 では、現れていただきましょう、と、西王母が、力を漲らせて、内より人型のものを、その身体から現出させた。誰だかわかった孫は、硬直している。
「お久しぶりだ、長老殿。」
 驚いている孫に代わって、東王父が挨拶する。何百年も前に冥界へ降りた相手だ。相手も、「お久しいことだ。」 と、笑う。
「長老殿、あなたの孫は、そこにおります。」
 さあ、話を、と、東王父が、固まっている孫の身体を、その前に動かした。
「・・・白虎のじい様? 」
 あまりに驚いた現水晶宮の主人は、完全に素に戻っていた。そこには、それを知っているものばかりだから、誰も驚かない。
「ああ、そうだ。驚くのは無理もない。過去から、西王母様にお願いして、ここまで時を流してもらったのだ。・・・・無事、主人となった様子だな? 深雪。」
「時を渡ることができるなんて・・・・俺は知らないぞ? 西ばあちゃんっっ。」
 神仙界で、過去から時を渡ることができるなんて、深雪は聞いたこともない。そんなことができるなら・・・・と、言いかけて、西王母に止められた。
「ただし、私くしが存在する時間と場所という条件があるのですよ、深雪。おまえの願いは聞き届けることは、できないのです。そこに、私くしはいないのだから。」
 深雪が戻りたい時間に、西王母はいない。その時には知り合ってもいなかったからだ。
「それに、これには命数が必要です。この方は、最後の命数を、おまえのために使ったのです。」
「・・・命数・・・・じゃあ、じい様は、これをやらなかったら、俺が主人となるのは見られたんじゃないのか? 」
 五百年ほど前、白虎の長老が身罷った時、時間が足りない、と、この祖父は言った。だが、もし、こんなことをしなければ、十分な時間があったのだ。そう思ったら、思わず詰った。五百年も先の未来なんかより、その登極を目にして欲しかった。
「もちろん、見られたさ。だが、そこより先が、わしは見たかった。だから、こうしたのだ。立派になったな? 深雪。おまえが、無事に、ここにあることが、わしには何よりじゃ。」
「じい様、あんたも、大概に無茶だな。」
 最後の命数の使い方としては、些か無茶だと、深雪は苦笑する。自分なんかのために使わないで、祖父が使えばよかったと思った。だが、がしがしと深雪の頭を撫でて、長老は大笑いする。
「おまえには負けるわい。・・・・どうだ? おまえは、今まで自分の思うように生きてきたと、わしに言えるか? 」
 それは、最後に逢った時にくれた言葉だ。その確認のために、この祖父は、ここにある。胸を張って、深雪も頬を歪めた。あの言葉があったからこそ、思う通り、願う通りにやってこられた。
「言える。あんたの言葉で、俺は、それを実践してきたからな・・・・なるほど、こういうことか・・・あんたの言葉の意味は、このことだったんだな。」
 つまり、その言葉を贈る前に、ここへ時を渡ってくれたということだ。無事に、水晶宮の主人として過ごしている孫を確かめて、背中を押す言葉を与えたのだ。
「・・・そうか・・・それは重畳。次代は、どうだ? 」
「今、呼ぶよ。・・・・次代のことまで心配するなんて、やりすぎだろ? じい様。」
 深雪が一瞬、空を仰ぎ見て、それから嗜める言葉を吐き出して、祖父に抱きつく。大切にしてくれた祖父は、その最後の命数で、自分に逢いに来てくれた。それは、嬉しいことだ。
「おまえは身体が弱いくせに、限界まで酷使する。だから、気になってしまったのだ。・・・・その様子なら、恙無く子供を成し、次代も迎えたということだな。・・・・良かった。」
「当たり前だ。」
「その当たり前ができたのか、心配したのだ。華梨と一緒に幸せになるという約束は果たせたのか、とな。」
「今もこれからも、一緒に幸せになる。それは、ずっと変らない。・・・・もう、なんで、あんたは、勝手なんだよっっ。俺なんかのことで、時間を使うなんてっっ。このバカじじいっっ、もっと、他の事に遣えばよかったのにっっ。」
 最後に逢った祖父は弱っていて、床に伏したままだった。あの原因が、自分だと思えば、泣けてくる。相変わらず、泣き虫だな? と、祖父は、背中を撫でてくれている。言葉にならなくて、抱きついた腕に力を込めたら、祖父も同じように力を込めてくれる。大切だからこそ、心配してくれたからこそ、祖父は、ここまで来てくれたのだ。
「ごぉーーーらぁっっ、うちの親父、泣かせるとは、どういうことだっっ。そこの、くそじじい、俺が相手だ。親父から離れろっっ。」
 勢いのある啖呵と共に、小竜が現れた。まだ小さいが、それでも特殊な能力を有している。その波動が大きく膨大していくので、慌てて、父親が顔を上げた。
「うるさいっっ、くそちびっっ。」
 どんっっと大きな波動で、その波動を、父親が相殺する。感動の場面に殴りこみはいただけない。軽く弾かれた小竜は、びっくりして、空間に浮かんでいる。
作品名:海竜王 霆雷 銀と闇3 作家名:篠義