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海竜王 霆雷 銀と闇2

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「やはり、三人目の位置は譲れません。深雪、華梨、後見には是非、私を入れてください。」
「まあ、胡義兄上、気の早いこと。」
「先の時は、遅れをとりましたからね。今度は、あなたたちの力になりたいのです。・・・深雪、義兄からの我侭です。」
 我侭だから無理なら、それでよいと言外に義兄は言っている。この穏やかな義兄は、無理を押し通すような真似は好まない。その方が、ここまで言うのだから、小竜のことは気に入ったのだろう。
「うん、ありがとう、胡兄。なるべく、そうなるようにしてもらう。でも、ダメだったら伯父ということで。」
「ああ、それで構わない。霆雷、今度はもっとゆっくりと遊ぼう。今日は、予定があるので、これで容赦してください。」
「うんっっ、胡おじさんっっ、俺も楽しかった。」
 次回は、「顔見せ」の後だから、と、朱雀の長は、小竜に話して、ぎゅっと抱き締めて、帰途に就いた。






「顔見せ」の準備を始める前に、たくさんの書状が主人の許へ届けられた。それらは、どれも次期の後見に対する自薦だったので、やはりな、と、主人は呆れたように息を吐き出した。昔から、ほとんど水晶宮に篭っていた深雪だが、その知り合いは多い。「水晶宮の小竜」 というふたつ名を冠せられてから、その事実を確認しようとした物好きが多かったからだ。いや、それ以前から、その姿を把握して顔を出したものも居る。それらは、みな、その小竜を気に入ってしまい、後見に名乗りをあげてしまった過去がある。その時は、義理の両親が差配して、東王父と西王母、白虎の長老に決めてくれたから、騒ぎは大きくならなかった。だが、今度は、この書状の相手に断りを入れるのは、深雪の役目だ。
「東王父様と西王母様に関しては、断る以前の問題だから、これはお引き受けいただかなくてはならないだろう。」
 その書状の山から取り出されたふたつの書状を手にして、竜族長である青竜王が、深雪に声をかける。
「ですが、兄上、今度も後見などと、悪影響が懸念されますが? 」
「今更だ、深雪。あのお二人が、おまえに関することで除け者にされたら、本気で怒るぞ? 『深雪は我々の孫同然。それに助力するに、何の問題がありますか? 』 と、確実に非難した相手を攻撃する。これだけは絶対に回避不能だ。」
 青竜王妃である廉が、心配する深雪に反論する。先代の長に、ふたりの娘との婚儀を認めた時なんて、そんなことはなかったが、深雪に関してだけは、本気で保護者を自称している。孫バカと言われても、「そうです。」 と、返事する溺愛ぶりだ。
「主人殿、後見として、あのお二方は、文句のつけようのないお方たちです。・・・・それは、決定です。」
 もちろん、典礼を担当する相国も、そう付け足す。神仙界で、この二人に敵対するものはいない。つまり、霆雷を表立って攻撃するものは皆無ということになる。それは、竜族としても有り難いことだ。本来なら、こちらから伏してお願いするべきことだ。
「主人殿、お二方を外して後見を定められたら、そちらのほうが問題です。あなた様の時と同様にされるのが得策でしょう。」
 行政を担当する丞相も、そう勧める。それ以外の自薦のものは諦めてもらうしかない。
「シユウの長や朱雀の長は、私が謝罪させていただけば、どうにか収めてくださいますが、玄武の長は・・・・」
 前回も外されている玄武は、納得しないだろう。あのクソジジイは、しつこいんだよ、と、呟いたら、青竜王が、ごほんと咳払いした。
「玄武の長には、私から書状を出そう。・・・・どうせ、あの方はおもしろがっているだけだ。それでも、と、おっしゃるなら、華梨に出向いてもらう。」
 最強の黄龍が、断りの挨拶に出向いてまで、ごねることはない。
「いや、それならば、私が参ります。しばらく、お相手をすれば、ご勘気に触れることも・・・」
「ダメですっっ、背の君。あの亀を甘やかすと碌な事がございませんよ? また監禁して遊ぶに違いありません。」
 以前、そういうことをやられたことがある。ただし、深雪は跳ぶことができるから、適当に監禁されているフリで水晶宮と監禁場所を跳んでいた。玄武のほうも本気だったわけではない。単なる遊びだったから、深雪の人となりが解ったら、即座に開放はしてくれたが、それでも妻は、跳ぶことで体力を消耗させる夫を心配した。
「ですが、あなた様、あの方は娯楽に飢えているだけですよ? 」
「ダメです。ああいう遊びを、私の夫に仕掛けるということが、すでに害です。・・・亀は、私くしが、どうにでも料理いたしますから、兄上、そちらは懸念されなくて結構です。」
「まあ、そういうところだろう。・・・後見は、あのお二方ということで考えておきなさい、深雪。さて、『顔見せ』のほうの予定と出席者のほうだが・・・」
 長が下した決定に異を唱えるつもりはないのだが、他のもののことが気になる。こういう時は、神仙界一の博識の東王父に相談するほうがいいんだろうな、と、内心で書をしたためるつもりはした。なにせ、有名どころの八仙たちからも書状は舞い込んでいるのだ。これらを断るのも、難しいからだ。



 後見のお願いに添えて、自薦のものを書き連ね、どうしたらよいか、お知恵をお借りしたいと、締めくくった。大抵、自分の後見の祖父は、孫の悩みに適切な知恵を貸してくれる。自分自身で解決すべきと判断された事柄については、言葉はくれないが、ヒントだけは教えてくれる甘い祖父でもあるからだ。
・・・・あまり頼ってはいけないのだけど・・・・・
 自分で決断すべきことは、今までもたくさんあった。最終的に判断を下すのは自分だが、助言は、たくさん貰った。迷うこともあったが、自分の思う通りにしてきたつもりだ。
 それは、もう一方の後見が、最後に、そう言いおいたからでもある。白虎の長老は、最後に、「思うように、自分が考えるように進みなさい。」 と、若かった深雪の背中を押してくれた。未熟で、経験もなかった自分に、あそこまで力強く言葉を投げてくれたことは、今でも感謝している。あの言葉があるから、そして、自分の責任と義務を、しっかりと認識できたから、最終的な決断をしてきた。時には、生命の危機に瀕するようなこともあったが、それも、乗り越えてきた。自分が考えて願ったことだから、最後までやり通せたのだ、と、思う。
 書状を書き終えて、それを、太傳に差し出した。
「太傳、これを崑崙へ。それから、太常、こちらは謡池へ、お願いいたします。左右の将軍、警護を。」
 後見に決まっているお二人には、ただの伝令というわけにはいかない。大司徒のナンバー2に、それを任せた。恭しく書状を持ち上げた、太傳の常と太常の起東は、「承知いたしました、主人殿。」 と、そのまま書状を運んでいく。
『顔見せ』の準備で、水晶宮も大忙しだが、このふたりにだけは礼節を尽くさねばならないから、その背後から左右の将軍も従っていく。
「これで、あちらは問題はないだろう。・・・・主人殿、しばし休息をなされてはいかがです? せっかく逗留しているシユウの長殿と旧交を温められるは、竜族とシユウ一族との行政上の関係を確固たるものとしてくれましょう。」
作品名:海竜王 霆雷 銀と闇2 作家名:篠義