愛の深度計
「5つのハ−トマ−クだよ、ホテルでも星が5つ並んだら最高級だろ、
だから愛でもいっしょなんだよ、ファイブ・ハ−トと言ってなあ、5つハ−トは最高級の愛の証明なんだよ」
まったくの口から出任せ、高見沢は適当に答えている。
そして榊原も、悩んでいる割には大概いい加減な男だ。
「へえ、それ割に理解し易いですね、じゃあ、今日はそうしときます」
そう呟き、「どれくらい愛してますか?」の返事に、5つのハ−ト・マ−クを並べて、ケイタイ・メ−ルから早速発信するのだった。
高見沢は今単身赴任のアパート、その帰宅の電車の中にいる。
そして、事もあろうか、「どれくらい愛してますか?」についてずっと考え込んでいるのだ。
だが、やっぱり答えが見つからない。
「うーん、どれくらいか、難しいなあ」と、ため息がついつい出て来る。
愛とは一体何なのか?
その愛のメカニズムについて、科学的な解明はまだなされていない。
したがって、愛の深さを測るモノサシは未だない。
しかし、それは測定出来ないものだろうか?
そんなアホな思考が高見沢の頭の中をぐるぐると回っている。
肉体は設計図・DNAに従って作られて行く。
しかし、それに宿る心や魂はどう造られるのか、それはわからない。
さらに感情や想い、
つまり好きだとか嫌いだとか、そして愛だとか、
それらは個人個人にどのように創造されて行くのだろうか?
そして、その深さは人それぞれにどのように異なるのだろうか?