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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「夢の続き」 第二章 戦争のこと

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「ありがとう。行って来る、頼んだぞ」

舞鶴までの列車を見送る千鶴子の手には秀和が抱かれていた。見えなくなるまで真一郎は手を振って別れを惜しんでいた。

千鶴子の兄信夫は神田にあった印刷工場で仕事を続けていた。欧米との開戦後の日本の戦勝ムードが不安に思えてならなかった信夫は時折千鶴子を訪ねて話していた。

「千鶴子、このまま日本が勝ち続けることはないから、来年辺りから覚悟をしなければいけないよ。予想だけど、国力の違いを見せつけられるようにきっとなるから。都会は危ないから田舎に引越しできればそうしなさい」

学童疎開が開始される以前から兄の信夫は懸念を話していた。

昭和16年12月25日日本軍は香港を占領した。翌年ビルマ陥落、徐々に東南アジア諸国は日本軍の手に落ちていった。戦争が激しくなってゆくとともに国内では物資不足を補うためにいろんな統制が敷かれ始めた。千鶴子は兄に勧められていた田舎への疎開を考え始めていた。片山の両親にそのことを話すと、秀和のためにやむをえない行為だと理解を示してくれた。知り合いを頼って、信州の諏訪湖の傍で秀和と暮らし始めた。東京と違ってまだ戦争の激しさを感じさせるような風潮は見えなかった。

「おばあちゃんは何をしてお父さんと一緒に暮らしていたの?」疎開先のことを貴史は尋ねた。
「お百姓さんの家にお世話になっていたの。だから畑仕事を手伝っていたわよ」
「ふ〜ん、すぐに出来たの?」
「大変だったわよ。朝は早いし、日中は日差しが強くて日焼けするし、夜は真っ暗で何もないし」
「お父さんまだ小さかったでしょう?どうしてたの」
「近所の子供たちとかがね遊んでくれていたし、年上の娘さんが世話をしてくれていたの」
「何年生ぐらいだった?」
「今で言うと・・・小学校5年生ぐらいかな」
「そんな子供が面倒見てたの?」
「昔はもう今の6年生ぐらいの女の子は、赤ちゃんおんぶして家事を手伝っていたものよ」
「そうなの、じゃあ結婚も早かったんだね」
「16ぐらいでお嫁には行ったね。田舎は」
「へえ〜、じゃあ俺と洋子にはもう子供が居たっておかしくないって言うことだね」
「そうね、今みたいに長生き出来なかったし、遊ぶ場所もお金もなかったから結婚したのよね」
「食べるために?」
「それもあるけど、女は子供をたくさん生まないといけないって思われていたからね。そのためには早く結婚しないと出来ないでしょ」
「今は少子化みたいだから、逆だったんだね」
「少子化って危険なことよ。将来年寄りばかりになるって言うことだから」
「そんなことにはならないよ。僕たちだって二十過ぎて就職したら結婚するんだから」
「みんなそうだといいけどね。女性だって仕事続けたいって思う人も多いだろうし、子供に束縛されたくないって考える人も居るだろうからね」
「まだ良く解らないけど、好きになって年頃になったら結婚するって言うのが普通だと思うけどな」
「貴史は偉いわね。真面目に考えているから」

千鶴子はそういう点でも真一郎と似ていると感じていた。

千鶴子の家に戻ってきてから貴史は自宅が留守なので、電話を借りて洋子の家にかけた。
「もしもし、洋子?」
「貴史!おばあちゃんの所じゃなかったの?」
「そうだよ。もう墓参り済ませて帰ってきたところなんだよ。おまえ、何してるんだ?」
「うん、お母さんと実家に行く予定だったんだけど、体調壊しちゃって、私じゃないよ、家に居るの」
「そうなんだ。大丈夫なのか?お母さん」
「今はね。治ったみたい」
「そうか、時間あるなら逢わないかい?これから」
「いいよ、私がそちらに行けばいいの?」
「深川だよ。解る?」
「解るわよ。どこかで待ってて・・・」
「じゃあ、東西線門前仲町の改札まで行くから。今から一時間後でどう?」
「多分大丈夫」

Tシャツにジーンズ姿で洋子は改札を出たところで待っていた。
「俺のほうが遅くなっちゃったね。ゴメン」
「いいのよ、今着いたところだから」
「あれ?洋子化粧してる?」
「ファンデだけね・・・だっておばあちゃんに会うんでしょ?」
「高校生なのにまだ早いよ」
「女の身だしなみよ。貴史には解らないことなんだから」
「洋子は色も白いし綺麗だから必要ないって言ってるんだよ」
「褒めてくれて、ありがとう。今度からしないでおくわ。貴史がイヤなんだったら」
「イヤじゃないけど、あんまり綺麗にするとじろじろ見られるだろう、いろんな男に」
「えっ?嫉妬してくれているの・・・貴史」
「そうじゃないよ。俺はそういう風に見られているお前がイヤなんだよ」
「それって、やきもちじゃないの?」
「そう思うなら勝手にそう思えばいいよ。行こうか」
「ねえ、はっきりと言ってよ。貴史が嫌がることはしないからさ。もう・・・わがままばっかり言うんだから」
「言ってないだろう?俺以外の男に見られて欲しくないんだよ。普通にしてろよ。綺麗にしなくても嫌いになんかならないから」
「うん、そうする」

貴史は男性としては珍しく胸が大きい女性と出会っても、ミニスカートの綺麗な足の女性を見ても反応しなかった。洋子以外に受け付けないといったところがあったのだ。

貴史は洋子を連れて千鶴子の家に戻ってきた。
「お邪魔します。栗山です。初めまして」
「あなたが貴史が話してくれた方なのね。さあ、汚いところだけど上がって頂戴」
「はい」

「貴史、栗山さんとても綺麗になられたわね。子供の頃しか知らなかったけど、そう・・・女らしいわ」
「えっ!そんなに褒めていただいて、嬉しいです」
「お世辞を言っているんじゃないのよ。こんな年寄りでも解ることはわかるんですから。貴史も幸せね。ぜひ仲良くして結婚してくれると嬉しいわ」
「結婚ですか?貴史さんと・・・はい、そう私も願っています」
「おい!洋子、まじめに答えているのか?まだ高二だぞ」
「いいじゃないの。後せいぜい5年ぐらいでしょ?待つのが」
「わかんないよ。そんなこと。他に好きな人が出来るかも知れないし・・・」
「誰に?貴史に?」
「俺じゃないよ。お前にだろう」
「私はそんな女じゃないわよ。小さい頃からずっと貴史だけを見てきたのよ。絶対に結婚するから」

このやり取りを聞いていた千鶴子はニコニコしながら、
「栗山さんは本当に貴史のことが好きなのね。女はね、好きになった人と結ばれるのが一番!幸せはね、愛し合っている二人が暮らすことにあるのよ。貴史とならきっと幸せになれる。そう思えるの」
「おばあちゃん・・・ありがとうございます。なんだか泣けてきちゃった」
「おいおい、来て早々泣くなよ!それより、お前もおばあちゃんから戦争の話を聞いてくれよ。意見が聞きたいから」
「解るかしら。簡単に話してね」
「ああ、そうするよ」

マレー半島に上陸した日本軍は最大の要塞、シンガポール目指してジャングルの中を進軍した。真一郎もこの中に居た。暑さと、雨と、マラリヤと飢えに悩まされながらそれでも一歩一歩進んでいった。

ついに日本軍は17年2月15日にシンガポールを陥落させ、米英軍の指揮官を降伏させた。司令官山下中将は陥落後蒋介石率いる中国系住民やゲリラを摘発して粛清した。