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てっしゅう
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「哀の川」 第七章 二人の再婚

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「そうですか・・・夫の事業は下降線をたどっています。それも急速にです。これからの生活や新しい直樹さんとの事業のことを考えると、お金を残しておきたいので、良い知恵はありませんか?」

直樹は麻子の言った話に少しびっくりした。あの大西功一郎が破産する?などと言うことが起こるのか、考えられなかったからである。

「麻子さん、あなたが大西の会社の役員をしている以上逃れることは出来ません。まずは役員を辞退しましょう。会社と関係の無い人間になってから、保証人の件は更新期日が来たものは、改めて更新しない。期日未満のものは金額にもよりますが、早めに財産を処分して払えるだけ返済するようにされたらいかがでしょう?」
「なるほど、そうですね。今月中にでも話し合って決めてきますので、また相談に乗ってください」

そう話して、事務所を後にした。

「直樹、昼ごはんをどこかで済ませて帰りましょうよ。いい?」
「いいよ、僕も帰ってまた食べに出かけるのも面倒くさいからね」
「そうね、もしよければ、ずっとうちにいてくれても構わないよ。純一もきっと喜ぶよ。話し相手が欲しいから・・・」
「ん〜、裕子さんやお母さんもいるから勝手には上がりこめないよ」
「大丈夫よ、母や姉は反対しないわよ。ねえ、そうしましょうよ。荷物はゆっくりと私の車で運べばいいから」
「早いなあ、決めるのが・・・じゃあ、昼を食べてから、車で必要な衣類だけ運ぼうかな・・・まあ、買ってもいいんだけど・・・」
「そうしましょう!買うのは買うでいいから、必要なものだけ持ち込んでくれない?嬉しいわ、直樹と暮らせる。ずっと待っていたから、やっと叶うって感じ!」

麻子は、やっとここまで来たと喜びをかみしめていた。以前良く通った神南の近くのカフェにパスタを食べに向かった。

「いらっしゃいませ!これは大西様、いらっしゃいませ。御案内いたします。裕子様がお見えになっておられますが、お約束されてましたでしょうか?」
「えっ?姉が・・・していませんけど、同席でも構いませんよ」
「かしこまりました。こちらでございます」

裕子はホテルを出て、同じように昼食に美津夫と来ていた。さすがに美津夫は仕事に行けなくて、今日は休んだのだ。麻子と直樹が通されて、びっくりしたのは裕子の方だった。

「麻子!直樹さん!どうしたの?ここが解ったの?」
「偶然ね、大橋さんの所から昼ごはんに来たのよ。店長が姉さんがいるって知らせてくれて」
「そうだったの・・・じゃあ、座って。こちらは、解るよね、麻子・・・改めて紹介するけど、加藤美津夫さん」
「麻子です。長くお会いしていませんのでお忘れでしょうか?」
「いや、覚えていますよ。しかし見違えるほど綺麗になられましたね!斉藤君とお付き合いしていると聞きました。彼も目が高いね」
「お褒めいただき嬉しいですわ。姉から話は聞いていました。もうお話されたのですね。姉のこと今度は、幸せにしてあげてくださいね」
「ああ、約束するよ。麻子さんも斉藤君と幸せになって下さいね。斉藤君、頼むよ」

偶然とはいえ、こんなに早く話し合う機会が訪れようとは、神もいたずら好きだと、裕子は思った。

四人はお互いのことを屈託無く話した。直樹の生い立ちまで話題になった。麻子は近々に直樹の実家に行かなければと考えた。一通り話が済んで、直樹が山崎家に居候する話が出た。

「姉さん、いいでしょ?直樹が住むこと」
「もちろんよ!母も気にしないから大丈夫よ。私たちはもう少ししたら一緒に暮らすけど、改装して、ダンスレッスン室だけは作らせてね。今生徒が詰め掛けてきて大変なのよ。何とか秋までに形を作らないと、今のままじゃパンクするから・・・」
「姉さん、そうなの。急がなきゃね。それなら三階建てのビルにして、加藤さんも一緒に住まわれたらどう?」
「おいおい、そんな御迷惑な話をしちゃいけないよ」直樹は口を挟んだ。
「いいのよ、姉さんもスクールをやるのよ。遅くなったり早朝だったりしたときにも、通わなくて済むし。出かけても加藤さんは安心できるから都合いいと思うけどなあ・・・」

この話はまんざら思い付きとは言え、裕子と加藤は乗る気を見せた。ひょうたんから駒?的発言に事態は急展開を見せてゆく。直樹は、加藤の会社を通して商品を仕入れることが出来れば、自分のやりたい販売に専念できるメリットを感じた。また、加藤は、自社で出来ない直販を直樹がすることで、販路を広げることが出来るメリットを得られた。構想はふくらみ、麻子が言った三階建てよりさらに大きなビルにして、四人の協力で活用して行こうと計画はスタートした。

「麻子、とてもいいアイディアに感謝するわ。早いうちに具体案を出して、設計士のところへ持ち込みましょう。あなたと直樹さんの予算と構想、私と加藤さんの予算と構想照らし合わせて、最終的に決めたらどう?」
「そうね、あの土地は昔に建てているから庭とかに使っているけど、今は土地指定が違うから100坪ほどの床面積に出来るわよね。多分五階建ての店舗付ビルに建て替え可能だと思うの。違うかしら」
「麻子さん、あの土地は誰の名義ですか?余計なこと聞くけど」
「父は生前分与するといって、姉さんと私の共同名義になっているの。功一郎さんが税金を払ってくれたの。自分に出来る恩返しだって・・・」
「そうか、じゃあ問題ないね。建物は株式会社所有にすればいいよ。僕と裕子は賃貸契約すればその収入を返済計画に組み込めるから、銀行から融資を受けやすくなるし」

加藤はさすがに経営者だ。良く知っていた。

直樹と麻子は十分に考えた末、建築設計士を尋ねデザインと見積りを依頼した。数週間はかかると言われた。麻子は直樹に一度香港にいる夫功一郎に会いに行くと話した。正式に離婚の手続きと、登記の変更、そのほか親権や自分の今後のことなど話しておきたかったのだ。
数日後、純一を置いて麻子は出発した。帰りに伊丹空港で直樹と待ち合わせをして斉藤家に一緒に伺おうと約束していた。直樹は自分の両親が麻子との結婚を祝福してくれるかどうか、気にはなった。しかし、30を過ぎてやっと聞ける結婚話に、反対はないだろうと言う思いも持っていた。子連れの女とそれも年上のだ、結婚なんて男性側の親からしてみれば、貧乏くじを引かされた、と考えるのが普通だろう。直樹は大学を出て、就職してそれなりの生活をしていた訳だから、なにもそんな人より、普通のお嬢さんを探せるだろうに・・・そう考えても当たり前だろう。
直樹が破産しないといけない借金に苦しんでいた事など、親は知らなかったのである。

麻子は、香港に居る夫と会っていた。懐かしさはなかった。淡々と事務的に話を進め、すべては麻子の言いなりに従ってくれた。最後に、大橋が話してくれた、財産処分しての返済には躊躇した。
「麻子、それは時期早々だよ。自宅は5億は下らない。すべての借入は返済可能だけど、まる裸になるぞ。お前は良いかも知れないが、俺や両親は困るからな。出来ない相談だよ」
「あなたが、わたしの連帯保証人で借りている金額を何かで担保してくれれば、それでもいいわ。そうでなきゃ、忘れた頃に返済命令が来たら困るもの・・・」