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てっしゅう
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「哀の川」 第七章 二人の再婚

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第七章 二人の再婚


裕子が約束のバーに着いた時にはすでに美津夫は待っていた。にこっと笑った笑顔は、一瞬にして裕子を15年前に引き戻してしまった。美津夫も裕子の変らぬ姿にほっとして、自分の侵した罪をいまさらに後悔した。裕子は美津夫の手を握った。

「美津夫さん、久しぶりね・・・こんな形になって逢うなんて想像してなかったけど、あなたの手のぬくもりは・・・変らないわね」
「裕子、君も全然変っていないよ!相変わらずスリムだし、綺麗だよ。やっぱりダンスの講師やっているからだね」
「あら、お口の上手なところも変らないのね、ウフフ・・・ありがとう」
「君もだよ、その辛口、ハハハ・・・」

この流れた15年は二人を遠い世界に追いやってしまったのではなく、ずっと流れに沿って同じ河口に向かっていただけなのだろう・・・裕子は哀しみの川がずっと自分の中に流れていた事を今改めて知らされた。自然に湧き出る涙をぬぐおうともせず、ひたすら美津夫の手を握っていた、強くだ。美津夫は何も言わずその手を握り返し、自分の中に裕子への熱い想いが火山の溶岩のごとくとけて流れ出してくるのを止められなかった。

「裕子、ここじゃなく二人きりの場所に行こう・・・我慢できない・・・」
「あっていきなりよ、そんなこと・・・あなたの思うとおりで構わないけど、遊びはイヤよ・・・」
「何言ってるんだ!今の気持ちに素直になっているだけだよ。君をもう放さないから、好きだった、ずっと好きだった・・・いまさらだけど、すまなかった」
「美津夫さん・・・もういいの、これからが二人に大切な時間なのよ。失ったものを取り戻すんじゃなくて、二人の夢を叶えるようにしましょう」
「そうだな、裕子・・・君を今すぐに抱きたい!」
「なんだかこんな年になったから・・・恥ずかしいなあ・・・」

二人はひと気のない裏通りに入り、偶然だが好子と直樹が過ごした同じホテルに入っていった。

直樹は純一と部屋で一緒に寝た。次の朝目覚めるとすでに純一は学校へ出かけていた。麻子が、直樹を起こさないように言ってくれたので、気付かずにいたのだ。朝食を摂りに台所へ居りてきた。

「いや〜寝すぎちゃったよ。純一君もう出かけたんだね、悪いことをしたなあ・・・」
「大丈夫よ、言い聞かせたから。起こさないようにね。パン食だけど構わない?飲み物は何にする?」
麻子は、エプロンをつけて手際よくみんなの支度をしていた。ちょっと今までに見たことが無い姿に、直樹は惚れ直した。

「コーヒーにするよ、ミルクと砂糖は要らないから・・・」
「はい、パンはトーストでいい?サンドイッチにも出来るけど」
「トーストで、バターがいいな」
「はい、どうぞ。足らなかったら言ってね」
「ありがとう、いただきま〜す!なんだか夫婦みたいだね」
「そうね、これからはこうするのよね、毎日・・・料理は得意だから任せてね。美味しいものたくさん作るから!」
「それは、楽しみだね・・・手伝えるといいけど、料理はなあ・・・作れるのは子供ぐらいだから、そっちで頑張るよ!ハハハ・・・」
「直樹!朝から何言ってるの!母も姉もいるのよ」
「怒るなよ、冗談じゃない。もう、しゃれで返せよ。たとえば、お夜食専門なのね?ってぐらいに・・・」
「そんな上手く言えないのよ、関西人じゃないから・・・」
「関係ないよ、頭ひねれば出来るよ!」
「したくないのそんなこと!これから冗談言っても、一人で浮くから気をつけなさいよ。それより、少し相談があるの、後で聞いてね」
「うん、解った」

麻子は、自宅建て替えと共に以前から資産運用に関して考えていることがあった。その相談がしたかったのだ。


15年ぶりに裕子はホテルに入った。昔会社帰りの美津夫と良く通ったラブホテルにだ。当時と変わらない室内で変わってしまったのは、自分たちだとお互いの流れた時間を悔やんだ。あの時のように、再び美津夫に抱かれる自分が想像出来なかったから、今は気持ちが落ち着かずにドキドキしていた。シャワーの音が裕子の胸をさらに高ぶらせる。
美津夫が浴室から出てきた。代わって裕子がシャワーを浴びる。昔のような若い肌はもう無い。少し膨らんでいるお腹も気になる。すべてを美津夫に見られる恥ずかしさがこみ上げてきた。バスソープの甘い香りが体を包む。覚悟を決めて、バスタオルでくるんだ体を美津夫のいるベッドへ運んでいった。

「待っていたよ、裕子、さあ、おいで」
「うん、やさしくしてね。恥ずかしいから灯り消して・・・」
「こうかい?良く見えないよ、裕子が」
「いいの、昔みたいじゃないからこれでいいの」
「好きだよ、裕子、この日をずっと待っていたような気がする。裕子はどうなの?」
「ええ、そうかも知れないわね。あなたのこと忘れられないでいたのよね。忘れようとしたけど、無理をしてきたのよね。15年間誰とも心が開けなかった・・・あなたしか、こんなことしたいと思わなかったよ、好きなの、美津夫さん・・・」

静かに流れるBGMが心地よい空間を演出している。二人にもう会話は必要なかった。強く抱き合い、長い時間キスをして、美津夫は裕子の体を優しく愛撫して、やがて一つに重ねた。ゆっくりと惜しむように呼吸を合わせリズムを取る。久しぶりの裕子の体は、空白など無かったかのように激しく反応し、自分に合わせるように美津夫も中で果てた。

「美津夫さん・・・もう離さないから、離さないでね・・・」
「裕子、これからはずっと一緒だよ・・・」

二人は朝までそのまま深い眠りについていった。二人が流されてゆくのは、哀しみから愛に変わった、愛の川であった。

朝食を終えて直樹は居間にいた。着替えてきた麻子が傍に座った。いまから大橋事務所に行くから着いて来て欲しいといった。何の話かと聞きたかったが、向こうで聞けるからいいかと腰を上げた。忙しい時間を大橋は、麻子と裕子のためなら、割いてくれた。それは、親友の功一郎と関わりがある二人だからだ。二人は歩いて事務所まで来た。

「おはようございます。お忙しいのに勝手言ってすみません」
「構いませんよ、こちらへどうぞ・・・おはようございます。そういえば、ダンスの大会で優勝されたようで、おめでとうございました」
「ありがとうございます。お耳が早いですね、直樹さんの猛練習の賜物ですわ」
「そうでしたか・・・何か複雑ですが、喜ばしいことですね」
「あら、そうでしたわね・・・功一郎さんとは小さいころからの親友でしたものね。私が直樹さんとご一緒していること事態が、不快でしょうから・・・」
「いいえ、そんなことありませんよ。功一郎は身勝手なやつですから・・・まあ、それはいいとして、御相談とは何でしょうか?」
「ええ、直樹さんの事業の独立に合わせて、会社に出資しますでしょう?残りのお金を預金で持っていると夫の会社に万が一のことがあったら、すべて保証人の私の責任で払わないといけなくなりますよね?」
「事業の資金融資のために借りた、連帯保証人になっている金額だけはすべての資産が拘束されます。不足の分は分割で支払うか、破産して免責するかの選択になりますね」