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海竜王 霆雷 銀と闇1

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 数十年して、その時のことが、おぼろげながらに判明した時は、肝を冷やした。半死半生の状態だったと聞かされたからだ。
「お願いしたきことができましてな、金母様。」
 思い悩んだ末に、ひとつの可能性に行き当たった。できると実しやかに語り継がれている事象を確かめるべく、謡池へ出向いた。
「白虎の長老が珍しく、低姿勢ですね。何事ですか? 」
 相手は、仙人を統べる神だ。長老よりも位は上だが、あまり、それらのことは気になさらない。人払いした謡池の一室で、ふたりは対面している。いつもなら、側に侍っている麒麟たちすら退けさせた。重要な話であるからだ。
「深雪のことで、お願いがございます。」
「まあ、小竜の? 私くしとしましては、できることなら尽力いたします。」
 深雪の後見人である西王母は、その孫の名前に微笑んだ。大層、可愛がっているというのは、有名なことだ。東王父と共に、何度も、水晶宮を訪れている。おそらく、この方は、あのことも全てご存知のはずだ。すでに片付いたことを、とやかく言うつもりはない。ただ、確かめておきたいと思っただけだ。
「そろそろ、わしも冥界へ降りる時期が参りました。ただ心遺りなのは、深雪のことです。あれが、無事に登極し、次代へと繋げていけるのかどうか・・・・それが気になって、冥界へ降りる算段をしかねておるのです。金母様、その年寄りを愚かとお笑いください。先のことなど案じても、術なきこと。ですが、こればかりが気になり未練となっておりますのじゃ。」
 滔々と内に思うことを吐き出した。すると、西王母は、ころころと笑い出した。
「確かに、小竜のことは気に懸かりましょう。・・・・ですが、それだけの時間を跳ばれたら、あなたの命数は尽きるやもしれませぬ。このまま、登極をご覧になられたほうがよろしいのではありませんか? 」
 もちろん、時間を跳ぶというのは、かなりの反動もあることだ。僅かの命数のものが、それを使えば尽きるという西王母の言葉も理解できる。そして、西王母は、時を跳べることを肯定した。
「僅かなれば、望むことに使いたい。それ以上の心遣りはござりません。」
 途中で尽きたとして、惜しむ必要はない。その事実さえ、目にすれば、それでいいのだ。白虎は勝手気まま風任せの性格だ。だから、それでいいと頷いた。答えはわかっていたのだろう、相手も頷いている。
「よろしいでしょう。常なら断ることですが、小竜の後見人に名を連ねるあなたの頼みなら聞かねばなりますまい。」
 ただし、時間は僅かのことになりましょう、と、だけ付け足された。尽きかけている命数からすれば、長時間は無理であるのだ。
「顔を逢わせて問いたいだけのこと。僅かで結構です。」
「では、私の時間の先に参られよ。」
 神である西王母は、永遠ともいえる時間を生きている。その時間の流れに乗せて先へ行くことができる。それには、命数が必要で、足りなければ、そこで立ち消えていくことになるという。一か八かの賭けならば、次代の顔まで拝みたい、と、白虎の長老は希望を述べた。出来得る限りの時間を先へ流してくだされ、と、深く頭を下げて頼んだ。




 いつでもどこでも神出鬼没の「水晶宮の小竜」は、父親に害をなす相手を見つければ容赦なく飛んで来る。ときたま、父親のほうが心の声で呼び出すこともあるが、それは稀だ。
 水晶宮の全域を、くまなく把握するだけの能力を有している小竜には、誰かが来訪したなんてことも、すぐに判明する。長い長い行列が、静かに正門から入ってくる。それを心で確認して、目の前に意識を戻した。
「なあ、蓮貴妃、赤い鳥が来たぞ? あれは、なんだ?」
 書の練習をしている最中に、大きな集団の到着を感じた。ほとんどが鳥という集団は初めてだ。
「なぜ、おまえは集中しないのですか? 小竜。今は、書を練習しているはずですが? 」
「いや、だって見えたから。あれは、なんていうんだよ? 答えろ、蓮貴妃。」
 父親と同じ能力を持っている次代の主人は、まだ幼く言葉遣いも何もあったものではない。ぼかっと一発、小竜の頭を書物の角で殴り、蓮貴妃は深く息を吐き出した。
「朱雀の一行です。我が背の君の実家で、今回は、季節の挨拶に参られたはず。しゃしゃり出るようなことは禁じます。」
「廉の家か。そういや、廉も蓮貴妃も赤い鳥だな。」
 この世界に来て、まだ僅かの小竜には、現れる生き物たちは、どれも珍しいものだ。この世界は、見た目に人型をしているが、実態は、まったく違う生き物であるものが多い。自分だって、真っ黒な竜になった。だから、やってくるものには興味津々である。
「親父と仲は良いのか?」
「義理の兄弟ですし、朱雀の長は、水晶宮の主人殿と水魚の交わりとも呼べる深い信頼関係をお築きです。」
 興味があるなら、それについての知識は与えるべきだろうと、蓮貴妃は、朱雀について説明する。神仙界の代表的な一族であり、竜族との関係も円満なものである。現在の長の姉が、青竜王の正妃であることから、その関係は確固としたものになっているし、水晶宮の主人とも登極前からの付き合いだ。
「親父の兄貴か・・・・でも、強さでは、親父のほうが上だな? 」
「まあ、深雪に対抗しうるものは、黄龍だけでしょう。銀白竜は、黄龍と同等と言われてはおりますね。」
「へへへへ・・・・親父最強って、なんかいいなあ。俺、ますます燃えるぜ。」
 内心で、蓮貴妃は、その小竜の言葉に苦笑する。その銀白竜が、自分より強くなるだろうと判じたのが、この小竜だ。
「竜族は、神仙界では最強の名を欲しいままにする一族です。おまえも、やがて、父上の地位を次ぐ。それには、父上を越える知識も携えなければなりませんよ? 小竜。」
「わかってるよっっ、んなことは。だいたい、俺の名前からして難しすぎるってーのっっ。」
 名前は、難しいわけではないのだが、普段、呼ばれる字のほうは、画数も多く、なかなか様にならない。まずは、名前からと書き方の練習をしても、しっくりする字にならないのだ。
「練習しなければ、上達しないのは当たり前です。おまえの名前ぐらいで、弱音を吐くとは何事ですか? 」
「だって、親父も美愛も、おかあさんもさ、俺でも書ける字なんだぜ? 俺だけ難しいんだもん。」
 父親が名づけのは、霆雷という激しい雷を意味するものだ。黒竜ではあるが、漆黒よりも深い闇色の鱗からも伺える妖気のような気は、相手に恐怖すら与えるほどの迫力がある。まだ幼いから、それほどの威力はないが、成人すれば名に相応しい姿となるだろうと、噂されている。
「ほほほほ・・・・深雪が名づけた意味すら理解できない鳥頭では、この先が思いやられます。その字の意味を、早く紐解けるようになりなさい。」
 絶大な力を宿した小竜が、この竜族の頂点に立つ時、その字は、周囲に理解されるだろう。それは、蓮貴妃にしても楽しみなことだ。
「うるせぇー、わかってるよ。」
 ぶーぶーと文句を垂れつつも、筆を動かしている小竜は、たどたどしく見本の文字を真似ている。



 時候の挨拶などというものは、儀礼的な言葉の掛け合いだから、すぐに終わる。それが終われば、ごく普通の会話になる。
「珍しい方がいらっしゃる。」
作品名:海竜王 霆雷 銀と闇1 作家名:篠義