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新月の夜に

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女は、新月の日を待った。
その思いは、日を追うごとに女の中で膨れ上がっていった。
そして、その日。
川沿いで待つ女のもとに 男は現れなかった。
連絡を取り合う術など、無い。
ただ、新聞やその手の情報で知る満月や新月の事だけが約束らしきもの。
日を間違えれば、すれ違い。
(何かあったのかな?それとももう約束を忘れてしまったのかな・・・)
女の心に雲が掛かる。どうやら雨雲に変わりそうだ。
傘を持っていない心の女は、降り出す前に家路を帰った。
家に戻った女は、シャワーの降り注ぐ中で、土砂降りの心(涙)を流した。
(こんなに淋しいなんて・・こんなに悲しいなんて・・・こんなに・・・)

翌朝、帰宅した夫は、まだ腫れている瞼の妻に 『何かあったのか?』と尋ねた。
「ううん、何でもない。映画見て泣いちゃっただけ」
その後、DVDに録画してあった映画を見た夫も目を赤くした。

その日の夕食の頃、夫が異動の話をした。
「異動は、課長に辞令が出たよ。良かったー。変わらずに済んだ。とりあえず良かったね」
「そうね」
女は、微笑んだ。
食後、ふたり分のコーヒーを入れ、頂いた焼き菓子を食べながら、会社のわからない話をする夫に相槌を打ちながら聞いた。
心はどこかうわの空だった。
女は、外へと出かけたくなった。
(昨日会えなかったのは、日を間違えたからかも知れない。いや、きっと違う理由・・)
夫が、入浴している間に少し外へ出た。
川沿いまで行ってみた。
やはり男の姿はなかった。
女は、呆れた自分を笑った。
家へと戻った女は、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。

作品名:新月の夜に 作家名:甜茶