顔のない花嫁
二日後、アレンとマリアはレイスとの待ち合わせ場所の時計台前に赴いていた。
彼らの背後にそびえ立つこの古風な時計台は不思議なことに針が動いていない。
その明確な理由は分からないが、なんでもずっと昔に戦争という巨大な争いがあって以来、針が動かなくなってしまったとか。そしてその時に唯一街に残ったのがこの時計台だったらしい。それ以来この時計台は戦争の悲惨さを歴史に残すために残されている……それが街の人間の一般的な認識だった。
まぁ、今はそんな小難しい話しなどどうでもいいことなのだが。
「アレン―!」
その時聞き覚えのある声が聞こえた。
そちらを見るとレイスが手を振りながらこちらに駆けて来ている。
「ごめんごめん。ちょっと準備に手間取っちゃって」
そうは言うものの特に悪びれた様子もなくレイスはペロリと舌を出して笑った。
「まったく自分から誘っておいて良くもまあ遅刻出来るもんだなぁ」
呆れたようにため息をついてアレンは言う。
「まぁまぁそう文句を言わずに……って、アレ、マリアちゃん?」
そこでレイスはようやくマリアの姿に気付き、驚いたように言った。
「どうも、お久しぶりですレイスさん。レイスさんが来るって言うんでついついて来ちゃいました!」
「ああ、そうなの」
しばらくレイスはなんだか不服そうな表情だったがすぐに吹っ切れた様に笑顔になった。
「それじゃあ行きましょうか。ガイドしっかり頼んだわよ」
そう言うと、レイスはまるで自分が遅れて来たのを忘れてしまったかの様に先陣を切って歩き出した。
マリアも元気よく笑いながら後に続いた。
最後にアレンも後に続き、時計台の前にはもう誰もいなくなった。