顔のない花嫁
「ただいま」
アレンが玄関でブーツを脱いでいるとすぐに奥の方からマリアの返事が返って来た。
リビングに入るとマリアが夕食のスープを煮込んでいるところだった。
五年前に両親が仕事のために遠出してからはマリアがこうして家事をしてくれている。
「ふぅ、今日も疲れた」
言いながらアレンはどっかりとイスに腰を沈めた。
「ハイ、お疲れ様」
マリアが出来たてのスープをアレンの目の前に置いた。
アレンの好物のトマトスープだ。
「おっ、サンキュ。そいじゃいただきまーす」
仕事疲れで空腹なアレンはすぐに食事に飛びついた。
そんなアレンの姿をマリアは可笑しそうに眺めている。
「あっ、そうだ」
スープを口に運びながら、ふとアレンが手を止める。
「今日街であいつに会ったんだよ」
「あいつって?」
「レイスだよ。ホラ、子供の頃近所に住んでて良く一緒に遊んだろ」
「ああっ……レイスさんね」
しかしまだマリアはパッとしない表情だ。
「あっ……もしかしてお前レイスのこと覚えてないだろ」
アレンに指摘されるがマリアはあわてて頭を振る。
「そっ、そんなわけないでしょっ」
「ふふん。さぁて、どうかな」
「……そんなことはどうでも良いからレイスさんとどんな話したのか教えてよ」
「うーん話しって言っても結構早めに別れたからなぁ……仕事中だったし。でも分かったこともいくつかあったよ」
マリアは真剣な表情でアレンの言葉に耳を傾ける。
「あいつ二週間前にこの街に越して来たみたいなんだ」
「引っ越して来たの……?」
「ああ、そうみたいだ。それでぼく、街の案内を頼まれたんだよ。二日後に」
「へぇ、レイスさんに街を案内するんだ」
それからマリアは悪戯っぽくふふっと笑う。
「ひょっとして二人きりでおデートですか?」
そんなマリアのからかいをアレンは一笑に伏す。
「ふん。そんなんじゃないよ」
「本当にぃ……?じゃあ別に私が一緒に行っても良いよねぇ?」
「ああ、もちろん別にかまわないよ」
「やったぁ!私、久しぶりにレイスさんに会ってみたかったんだよね」