顔のない花嫁
マリアは重い体を引きずって兄の部屋へと向かっていた。
どうやら限界が近づいて来ているらしい。
一歩足を踏み出すたびに体中が痛み、頭がクラクラする。
でもそんな物に負けるものか。
マリアは唇を噛みしめ、痛みをこらえてからアレンの部屋のドアを開けた。
アレンのことだ、どうせいつもの様にお寝坊するに決まってる。
だから私が起してあげないと―。
しかしそんな彼女の期待とは裏腹にもうアレンはベッドの上でパッチリと目を覚ましていた。
なんだかその表情は今まで見たどの表情よりも生き生きとしているように見える。
マリアは背筋がゾクリとするのを感じた。
彼女は恐る恐るアレンに近づく。
まさか―そんなわけがない―。
でも本当は彼女も分かっていたのだ。
もうとっくに限界が来ていることなんて。
アレンが快活な笑顔をマリアに向けた。
「全部思い出したんだッ!」
嬉しそうに言うアレン。
その瞬間、世界が音を立てて崩れ始めた。
マリアはへなへなとその場にくず折れる。
ああ―終わった、全てが終わった……。