顔のない花嫁
マリアが目を開くとそこは真っ白な教会。
彼女は木製の長イスに座っていた。
今、彼女は大勢の人々と共に披露宴を見守っている。
神聖な雰囲気を放つ祭壇の前で、誓いの口付けをするのはアレンとその花嫁アリス。
牧師が分厚い聖書片手に告げた。
「汝ら二人を夫婦と認める」
パチパチパチパチ。
凄まじい拍手の音が会場を満たす。
誰もが二人の結婚を祝った。
いたる所から祝いの言葉が飛ぶ。
おめでとう。おめでとう二人とも。
でも……私は認めない。
マリアは痛む体に鞭打って立ちあがった。
「そんなの絶対に認めない!」
突如教会に反響するマリアの叫び声。
人々が口ぐちに何かを呟きながらマリアの方を振り返った。
こんなめでたい時に何を不謹慎なことを―。
そんな人々の視線などものともせずマリアは教会の中央へと歩み出た。
そんな彼女を見つめて人々は絶句する。
彼女の体が崩れ始めていた。
ポロポロと、まるでゆで卵の殻が向ける時のように彼女の体が落ちていく。
しかしマリアはそんなこと気にしない。
「殺してやる」
アレンに近づく女は許さない。
彼に相応しいのは……私だ。
マリアは呆然とするアリスの頭部にいつの間にか持っていた鉈を振り下ろした。
頭から血を噴出させて倒れるアリス。
そんな彼女を見てマリアは狂った笑い声を上げた。
やった―やったぞ、これでもう私の邪魔をするやつはいない。
「お……お前なにやってるんだ……!」
真っ青な顔で叫ぶアレン。
イヤだなぁお兄ちゃん、そんなバケモノ見るみたいな目で見ないでよ。
マリアはよろよろとアレンに歩み寄る。
アレンは動けない。
まるでヘビに睨まれた蛙のように。
「ホラ、逃げないでお兄ちゃん」
いつの間にか彼女の顔はポロポロと崩れ始めていた。
次々と崩れて行く彼女の顔。
それでも彼女は止まらない。
アレンの花嫁になるために彼の方へと手を伸ばす。
いつの間にか彼女は真っ白なウェディングドレスに身を包んでいた。
その姿はまさに“顔のない花嫁”。
「ホラ、お兄ちゃんこのドレス似合ってるでしょ?だから早く私のことお嫁さんにしてよ―」
アレンに彼女の伸ばした手が触れようとしたその瞬間―彼女の体は灰になって消えた。
彼女の着ていたウェディングドレスだけが虚しくアレンの上に舞い落ちた。
「……」
アレンはただ呆然とした表情でその布切れを見つめていた。
それから彼は安堵のため息を漏らす。
何が起こったのか分からないが……とにかく終わったんだ。