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顔のない花嫁

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マリアに夢のことを話しても、あまり真剣にとり合ってくれなかった。
まあ、それは当然のことなのだけれども今のアレンにはちょっとばかり冷たく見えた。
時間が経ち、晴れるどころかさらに深く深く渦巻いていくモヤモヤ。
それは気晴らしのために出かけた仕事場でも同じことだった。
……どうしてもあの夢のことを思い出せずにはいられない。
あの女性は誰なんだ……? 
自分は彼女のことを知らないはずなのに、なぜだか愛おしいという気持ちを抱いてしまう。もしかしたら、自分にとって彼女はとても大切な人だったのかもしれない。
でも事故か何かが原因で自分は彼女に関する記憶を失ってしまった……。
原因を挙げていけばキリがないが、とにかく自分が彼女についての記憶を失っているのは間違いなかった。
唯一の手掛かりは彼女の名前。
*リス。
最初の一文字……それが分かれば。
っ……とそこでアレンは誰かにぶつかって倒れてしまった。
考え事に没頭していて、前から来る人に気付かなかったのだ。
「あらあら、大丈夫?」
そう言いながらアレンが落した書類の束を差し出してくる女性。
「ああ……大丈夫です。よそ見しててごめんなさい」
アレンは女性の方に顔を向けた。
魅力的な笑み。
アレンはしばらく彼女の顔に見入ってしまった。
「あら、あたしの顔に何か付いてる?」
そう言って悪戯っぽく笑う女性。
大人の色っぽさを持つこの女性の名前はクリス。
アレンの先輩だ。
「いっ……いえっ、ごめんなさいッ!」
あわててクリスの顔から視線をそらすアレン。
そんなアレンをクリスは面白そうに眺めていた。
「うふふっ。面白い人」
そう言うとアレンの前に屈みこんでいた彼女は立ち上がった。
「それじゃあ、もうあたし行くわね。仕事がんばって」
もう一度アレンに笑いかけるとクリスは手を振りながら奥の方に歩いて行ってしまった。
優雅に揺れる彼女の桜色の髪。
彼女の姿が完全に見えなくなるまで、アレンはじっと彼女を見つめていた。
……一目惚れだった。
作品名:顔のない花嫁 作家名:逢坂愛発