顔のない花嫁
再び結婚式
披露宴は粛々と進行し、いよいよクライマックスとなった。新郎による両親へのあいさつである。
涙を誘う場面だと聞いていたので、何を話すか何日も何日も頭を悩ませ考えてきた。
「おとうさん、おか…(ゴロゴロピシャーン)…ぼく…(ドーンゴロピシャッ)…うございました」
突然の窓を激しくたたく雨、ぼくのスピーチは・・・轟く雷鳴によりかき消されてしまった。
「大丈夫よ。あなた」
隣に立つ妻がぼくに優しく笑いかける。
「ありがとう」
ぼくは愛する彼女の方に顔を向けた。
「えっ……?」
いつの間にぼくはこんなに目が悪くなってしまったのだろうか。
彼女の顔が見えない……真っ白なウェディングドレスは見えるのにその上の顔の部分だけがすっぽりとなくなってしまっていて見えないのだ。
「どうしたのあなた?」
妻が怪訝そうにぼくを見つめる。
いや、正確には見つめているのかは分からないのだが―。
「ああ、大丈夫だよ……」
急に視界が揺らいだ。
周りの物全てが歪んで見える。
あぁ……一体何が起こっているんだ?
急に体から力が抜けて、僕はそのまま床に倒れた。
「あなた……!?大丈夫あなた……!?」
妻が叫びながら僕に駆け寄る。
彼女の手が荒々しくぼくの体を揺らした。
「ああ……大丈夫だよ」
それからぼくは彼女の名前を口にする。
「*リス」
僕の返事を聞いて彼女は笑った。
「良かった」
彼女の笑みにつられて僕も笑う。
ああ、愛してるよ*リス。
見つめる彼女の顔を撫でようと手を伸ばしたその時、突如眩い光が目の中に飛び込んできた。