顔のない花嫁
病院の待合室のソファーにアレンとマリアは腰かけていた。
あの後、駆け付けた救護団の手によってレイスは一命を取り留めた。
命に別条はないが、頭部に大きな傷があるため手術が必要なのだという。
……とはいえ、命は無事だったのでアレンはホッと胸を撫で下ろした。
しかし、落ち着いて冷静になってみるとある疑問が浮かんでくる。
「なぁ、マリア。レイスに一体何があったんだ?」
マリアは疲れた表情をこちらに向ける。
それもそうだ、突然あんなことがあったのだから。
「階段から落ちたのよ……いえ、こう言った方が良いのかしら……レイスさんは誰かに突き落とされたの」
「えっ……?」
アレンは今マリアが言った言葉の意味が分からなかった。
誰かに突き落とされただって……!?
「おい、それどういうことだよ」
「私にだって分からないわ……直接見たわけじゃないもの」
それからマリアはアレンがいなくなってからのことを話し始めた。
アレンは口を挟まずじっと耳を傾けた。
「……それでトイレから戻ったらレイスさんの姿がなかった。でも私はすぐにレイスさんを見つけたわ。……私が戻って来た時にはもう、レイスさんは階段の下に倒れていた……ああ……私がレイスさんを一人にしたりしなければ……」
マリアは自己嫌悪に陥り頭を抱えた。
そう……彼女が自分を責めるのはもっともだ。
なぜなら、“彼女”はレイスが一人になるのを見計らって襲撃を仕掛けて来たのだから。
「……それで、一体だれがレイスを?」
「……分からないわ。でも目撃者の人に聞いたら、真っ黒なフードを被った女だったって」
「真っ黒なフードを被った女……?」
「うん。でもそれ以外はまったく手掛かりなし。いつの間にか女は姿を消していたらしいわ」
「黒いフードの女か……」
一体何者なんだ……?