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『喧嘩百景』第1話不知火羅牙VS緒方竜

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 薫の横で女生徒もくすくすと笑う。名札には「内藤」と書かれていた。
 ――内藤、内藤彩子か。こいつらそろって惚けやがって。
 竜はぎりっと歯を噛み締めた。
 「成瀬薫。やっぱあんたやったんやな」
 「だから、龍騎兵は解散したって言っただろ」
 薫はティーカップで紅茶を啜りながらそう言った。
 「龍騎兵がのうなっとったってかめへん。あんたの名前はまだこの辺りじゃ効いとるんや。日栄とあんたとどっちが最強か知らへんけど、あいつのあの様じゃ、どうせ勝負にゃならへん。総長自ら相手してもらうで」
 竜は部屋の人間を睨み付けながら凄んだ。
 部屋には薫、彩子、羅牙以外に女生徒が三人いるだけだった。
 女に囲まれてへらへらしよって。
 腑抜けとんなら俺様がきっちり引退させたる。
 「緒方、あたしに挨拶に来たんじゃないのかよ」
 もう薫以外眼中にない竜に羅牙が声をかけた。
 「女にゃ用あらへん」
 取り付くしまもない竜に、
「羅牙を女だと思わない方がいいぞ」
薫が忠告する。
「うちは女の方が強いからなぁ」
と、ティーポットから紅茶を注ぎ足す彩子を見上げながら付け足す。
 「運動したいのならあたしが相手になってやるって」
 茶請けらしい菓子をつまみながら羅牙。
 「不足ならボクも加勢しようか?」
 綺麗な黒髪の、とても喧嘩沙汰には縁のなさそうな色白の娘がくるりとした黒目がちの瞳を輝かせる。
 「俺は龍騎兵の総長に用があるんや。関係ないやつぁ黙っとれ」
 竜の言葉に薫は小さく肩を竦めた。
 「しょうがない。表に出るか」
上を指差す。図書館には屋上があった。
 「そうこな」
 竜は嬉しそうに笑った。

★          ★

 「来いよ、緒方」
 屋上で竜の前に立ちはだかったのは羅牙だった。
 他の連中は、部屋から机やら椅子やら茶道具やら持ち出してきて、茶会の続きを始めようとしていた。
 「お前ら、なめとんのかっ。成瀬薫っ、何であんたが相手せんのや」
 竜は完全に頭に来ていた。
 「俺はいいよ、お前の勝ちで」
 薫の方は全くやる気がない。
 「そんなん聞けるかいっ、勝負せえっ」
 竜は構わず薫に掴みかかった。
 「あたしが相手するって言ってるだろ」
 竜と薫の間に羅牙が飛び込んだ。