彼女の白い樹
日が落ち始めた頃。
彼女は庭の白樹を指して告げた。
「あの樹は、私の足を埋めた場所から生まれたのよ」
彼女は、静かに、真顔で私の顔を見つめた。
私は彼女の瞳の中に 白い足が白樹に変わっていく幻想的な光景を見た気がした。
(そんなことは ありえないな)
現実的に考えれば、事故で切断した足を庭に埋めるなどという行為は常識外れである。
(彼女の妄想だろう)
そう思った。
美しき白い樹に自分が失った足を重ね合わせているのだろう。
松葉杖で樹の傍まで歩いていき、倒れ込むように白樹に寄り添う彼女。
そんな姿から目を逸らし、私は黙って立ち去った。