彼女の白い樹
「おひさしぶり」
突然の声は庭の奥からした。
そちらに顔を向けると、見覚えがある美女が庭椅子に座って微笑んでいる。
その時、私は驚きや懐かしさよりも、何故か微かな恐怖を感じた。
(どうして彼女が此処にいるんだ……)
それは、私の人生における不思議な「偶然」の一つだったのだろう。
白樹の邸宅は、彼女の実家だった。
彼女は私との再会をとても喜んでいて、昔の思い出話をしてくれた。
だが、以前と変わらない筈の彼女の優しげな微笑みに 私は何か違和感を覚えていた。
美しい白肌も今では少し病的に思えてしまう。
かつては心が安らいだ彼女との会話が息苦しく感じてくる。
そんな私の気持ちが伝わったのかも知れない。
不意に彼女は少し寂しげに微笑むと、小さく呟いた。
「もう全ては遠い過去の話なのね……」