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彼女の白い樹

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 結婚する一か月前、私は独身最後の旅として一人で京都を訪れた。

 旅行先を京都にした理由は、特に何も無かったと思う。
 どちらかと言うと、このような雰囲気の街を私は好きではない。
 この空間は、東京よりも空気が重い気がする。
 古き都が残す歴史の薫りも、私にとっては魅力的なものではなかった。

 だが、私は京都を訪れた。
 まるで何者かに誘われるかのように。

 すぐに名所見物に飽きた私は、あてもなくブラブラと歩いていた。
 ふと気がつくと、進んでいる道の少し先にある旧びた屋敷の庭に白い樹が一本見えた。

 それは、実も葉も花も無く、純粋に白だけの美しさを持っていた。

 私は屋敷の近くまで来ると、その樹を一瞥した。ほんの一瞬のことだ。
 すぐに立ち去るつもりだった。


作品名:彼女の白い樹 作家名:大橋零人