彼女の白い樹
私は就職すると同時にアパートを出た。
引っ越さなくとも職場に通えない距離ではなかったが、そのアパートよりは立派な社員寮があったし、社会人として生活を一新したいという思いもあった。
彼女との別れに一抹の寂しさも覚えたが、いつかは必ず訪れることだと自分を納得させた。
最後の挨拶でも哀しみを演出する出来事は特に無かったと思う。
そして、その五年後に私は同じ職場で働く年下の女性と結婚することになる。
その頃には学生時代の記憶も薄れ、彼女の面影すら忘れかけていた。
それで良かった筈であった。もう二度と会わないのであるならば。
だが、私と彼女の物語は まだ終わっていなかった。