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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「夢の続き」 第一章 修学旅行

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「はい、出征の前に私と約束いたしました。千鶴子は真一郎を慕っております。真一郎に依存はないのでどうか認めていただけますようお願い申し上げます」
「そうか・・・両人ともに認め合っておるのなら私が反対することもなかろう。千鶴子さん、真一郎は軍人だ。兵役を終えて戻ってきても再び召集されるかも知れない。それでも構わないんだね?」
「はい、真一郎さんのお役に立ちたいと願っております」
「そうか、ありがとう。信夫君の妹さんだ、何の不足があろう」
「ありがとうございます。早速両親にも報告します」
「そうだな。いろんな準備が要るだろうから、一度ご両親にも挨拶をしないといけないね。よろしく言っておいてください」
「はい、近いうちに改めてご挨拶に伺います」

この年の暮れに正式にお互いの両親が顔をあわせて婚約と言う形になった。婿がいないのもおかしな話だったが、戦地に出かけているのでこれも仕方のないことだった。

「おばあちゃんのお兄さんは命の恩人だったんだ。5歳でよくそんなことが出来たね。ビックリしたよ」
貴史は話しを聞いていて率直にそう感じた。
「貴史、兄には本当に感謝しているんだよ。沖縄で戦死したと報告を受けたのが昭和20年8月14日。そしてその翌日の明け方夫が息を引き取った。きっと先に旅立った兄が真一郎さんを呼びに来たんだと今でも思っているよ」
「後一日長生きをしていたら、戦争が終わっていたのにね」
「そうね、なんと言う皮肉でしょうね。8月15日の早暁に飛び立っていった特攻隊の戦闘機もあたのよ。そんな事ってあっていいの・・・戦争なんて勝っても負けても、悲しむ人がたくさんいるの。だから決してしてはいけないのよ」
「おばあちゃん、今の時代に戦争をするなんてことは日本にはないよ。それほど大きな犠牲を払ってきたと思うから。違う?」
「そう思いたいね。ずっと永遠に」

「貴史、明日はおじいちゃんの墓参りに行くよ。いいだろう?」
「うん、暑いから早くに出かけないといけないよね?」
「そうだよ。お寺さんには話してあるから、ここを6時に出発して片山家の墓に行くよ。帰りに兄の墓にも行きたいからそのつもりでいてね」
「じゃあ、早く寝なきゃ・・・」
「お風呂に入って、ご飯にしましょう」

貴史は寝る前に調べてきた資料に目を通していた。

「何を見ているんだい?」千鶴子は尋ねた。
「うん、ここに来る前に図書館で調べたんだよ。日本が何故戦争を始めなければいけなかったのか、ということをね」
「解ったのかい?」
「歴史の時間に習ったことは結果だけを順になぞって行っただけだけど、経験者の書かれた本に載っていたことは習わなかったことが多かったので驚いているんだ」
「そうね、簡単に言い尽くせないから授業では細かくは話せないでしょうね先生も。私は体験者だけど、兄と夫の考え方が違うことに戸惑ってはいたわ」
「どういうこと?お兄さんとどこが違っていたの?」
「簡単に言えば、兄は平和主義者、夫は軍国主義者だったの」
「180度違うね。でも、友達だったのでしょ?」
「そうよ、仲は良かった。話し合うと必ず喧嘩になったけど殴りあったり罵声を浴びせたりするようなことはなかったの。兄は手が不自由になっていたから、夫は憐れんでいたのかも知れないけどね」
「考え方の違う親友がそれぞれに戦争で命を落とした意味を考えないと浮かばれないね」
「貴史!素敵なことを言ってくれたのね。偉いわ・・・あなたはこの頃夫にも似てきた。なんだか頼もしいって言うか、怖いと思ったりもするのよ」
「おばあちゃん、本当に似てきた?ねえおじいちゃんの写真見せてよ」
「待ってて・・・はい、これしか残ってないの。空襲で焼けちゃったから」
「空襲?20年3月の東京大空襲のこと?」
「そう、良く調べているのね」
「おばあちゃんの家は大丈夫だったの?」
「この辺一帯は全滅だったわ。戦後に建て直して住めるようになったけど、酷いものだったわ」

貴史は祖母が語る空襲の話に涙がこぼれてきた。

「どう、おじいちゃんに似てるって思わない?」差し出した写真を見せて千鶴子は貴史に聞いていた。
「よくわかんないね。色が変わってしまっているから。そう言われるとそういう風にも見えるけど、おばあちゃんが言うならそうなんだろうね」
「私には目に焼きついているから間違いなくそう思えるのよ。体付きは貴史のほうが一回り大きいけど、目鼻立ちなんかはそのままよ」
「ふ〜ん、じゃあ、僕を見るたびにおじいちゃんを思い出したりするの?」
「ええ、その通りよ。恵子はあまり似てないのよ。お母さんに似たのねきっと」
「よく言われるんだよ。お姉ちゃんと似てないって、俺に似てたら美人でもっともてたのにね」
「あら、お姉ちゃんのことそんな風に言って!可哀そうじゃない?」
「大丈夫だよ。自分で不細工って言ってるから。でもね、彼が出来たんだよ!生まれて始めて」
「そうなの!目出度いことね。あなたは彼女はいるの?」
「知ってるだろう、洋子のこと?」
「近所の仲良しだった子ね。その子と付き合っているの?」
「広島へ修学旅行に行ったときに告白されたんだよ。好きって」
「へえ〜いまどきは女性のほうから言うのね。びっくり」
「当たり前だよ、そんなこと。男女平等だからね」
「それはちょっと違うんじゃないの喩えが」
「そうだったかな・・・まあいいや。今度連れて来るよ。可愛い子だよ」
「なんとなく覚えているわよ。小さい頃見せてもらっていたからね。素敵なお嬢さんになられたのね」
「お嬢さん・・・か。そんな感じには見えないけどね」
「女は好きな人が出来るとお嬢さんに変わるのよ。覚えておきなさいね」
「うん、今度一緒に旅行に行くんだ。親には内緒だけど・・・」
「まあ!なんてこと・・・まだ結婚前なのに」
「古!そんな事言うなんて、お母さんには内緒にしててよ」
「口止め料高いわよ、いくら戴こうかしら」
「参ったなあ・・・肩揉んであげるから許してよ」
「ほんとう?じゃあお願いするわ。優しくしてよ」
「もう・・・本気なんだから。はいはい、解りましたよ」

千鶴子は貴史に肩を揉んでもらって幸せを感じていた。うっとりとしてきておぼろげながら夫と話した最後の言葉を思い出していた。

「貴史、思い出したことがあるの。言っても構わない?」
「なに?」
「おじいちゃんが死ぬ間際に言ってくれたことよ」
「遺言なの?」
「遺言じゃなく、お別れの言葉のような感じだったわ」
「さようならとかありがとうとか言ったの?」
「ちがうよ。俺は間違っていた、って言ったのよ」
「なにが間違っていたのかな?」
「それは言わなかったの。言えなかったのかも知れないけど、もし15日より長く生きていたらきっと話してくれたと思うわ」
「おばあちゃんのお兄さんも死ぬ間際に何か言い残したんだろうね、きっと」
「そうね、きっとそうよね。兄はね、戦地に出向くときに帰って来れないから、子供をしっかりと育てるんだぞ、って言い残してくれたの。あんなに戦争を否定していたのに、行くとなったら覚悟を決めていた。不思議なものね・・・」
「おばあちゃん、お兄さんはおばあちゃんとお父さんの命の代わりになろうって決めたんだよ、きっと」