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てっしゅう
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「夢の続き」 第一章 修学旅行

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「今は確かに自由研究のためにお祖母ちゃんに話しを聞きたいって思ってるよ。それと洋子とのことは別だろう?嫉妬するなよ」
「誰が嫉妬なんかしてるのよ!もう・・・何も言わないから、勝手にしてなさいね。知らないから」
「怒るなって。解ったよ、行くから。機嫌直して、ね?」
「初めから素直になればいいのに・・・」
「でも洋子、泊まるって言うことは、最後までするって言うことだぜ、いいのかい?」
「もう!そんな事聞いて、全然ロマンチックじゃないね貴史は」
「だってそうだからそう言ったんだよ」
「女はそういうことは聞かれたくないし、答えたくもないの。誘っている時点で期待しているんだから、それぐらいのこと解りなさいね!」
「すごいなあ・・・女は」

貴史は嬉しかったが、反面洋子の積極的なところが今までと違うように思えて戸惑ってもいた。恋人宣言したことで何かが変わってしまったのだろうか。ペースは完全に引っ張られている貴史であった。

自分の中にある広島で知った戦争への興味は日増しに強くなっていた。洋子との旅行はお祖母ちゃんのところから帰ってきてからにしてもらった。少し下調べしたいと思ったからだ。毎日午前中は図書館に通って戦争の本を見て勉強した。

貴史には恵子という三歳年上の姉がいた。大学生で教員を目指して真面目に勉強に励んでいた。当然彼が出来ることもなく、貴史はいつもそのことをなじっていた。恵子は洋子が尋ねてくるたびに「どうして貴史なんかにあんな可愛い子が彼女になってくれるんだろう」と不思議に思っていた。両親との夕食時にもそのことを良く話していた。

「恵子、貴史のことそんなふうに言うんじゃなく、あなたも素敵な彼を見つけたらどう?」
そう母に言われて、
「私は不細工だから見つからないのよ。諦めてる」
必ずそう反論していた。
「そうだよ、お姉ちゃんはそういうふうに決めてかかっているからダメなんだよ」
貴史の言い方が生意気に聞こえたのか、
「あんたみたいな子は、そのうち振られてしまうからね。いい気になっているんじゃないよ」
「悪かったね・・・誰かさんみたいにもてなくないから平気さ」

父親の秀和が「いい加減にしろ!」と怒って話は終わってしまう。しかし、今日は少し様子が違っていた。
「貴史、洋子さんとどこかに行かないの?」
「えっ?なにそれ・・・」
「だって夏休みでしょ。恋人同士なら出かけたいでしょ?」
「お姉ちゃんからそんな事聞くなんて、ビックリだよ。どうしたの?」
「言っちゃおうかな・・・私も彼と出かけるの」
「はあ?彼?だれそれ?」
父親の秀和も母親の美佐子もこれにはビックリした。

「恵子、彼が出来たの?」美佐子が尋ねた。
「誘われているの。彼って言うことじゃないけど、親しくなった人が出来たのよ。社会人だけど、お盆休みに遊びに行こうって言われているの。構わないでしょ?」
「お姉ちゃんそれ危険だよ。遊ばれているんじゃないの?」貴史は真面目にそう返事した。
「何言ってるの!貴史は・・・そんな人じゃないよ。ねえお父さん良いでしょ?」
「困ったな・・・急に言われても。美佐子が良いなら俺は許すけど」
「そうね、もう大人だから親の私たちがどうのこうのって言えないから、恵子の好きにして構わないのよ。でも・・・女の子だから心配はあるのよ」

美佐子は恵子が有頂天になって男と女の関係になったらその後で妊娠しないか懸念していた。今まで遊んできたことがないから余計に心配でもあった。旅行に出かける前にその事は話そうと思っていた。

「俺さ、13日からお祖母ちゃん家に泊まりに行くから。お父さんとお母さんはどうするの?」
「そうなの貴史?」
「うん、電話はしてあるよ。ちょっと聞きたいことがあって行くんだ」
「お母さんは実家に行こうと思っているの。混むといけないから電車の切符予約しておこうと思っているの。じゃあ、恵子も貴史も一緒に行けないって事ね?」
「おじいちゃん達寂しがるかなあ・・・」
「そうね、でももうあなたたち大きいから諦めてはいると思うけどね」
「じゃあ、よろしく伝えておいてよ。お正月には絶対に行くからさ」
「解ったわ、そう言っておくから。恵子もダメなのよね?」
「ゴメンなさい・・・」

美佐子の実家は静岡県の掛川市にあった。今年は夫の秀和と二人だけの帰省になった。13日になって貴史はひとりで祖母の片山千鶴子に会いに出かけて行った。千鶴子は父親秀和の母であり大正10年に深川で生まれた。旧姓大山千鶴子、仲の良い三つ上の兄信夫と同級生だった片山真一郎と結婚した。それは日本が大東亜戦争への道を歩み始めていた昭和15年春のことだった。翌年春に長男秀和が生まれて少しだけの間片山家には幸せの時間が流れていた。

昭和12年に片山真一郎と大山信夫は徴兵検査を受けた。片山は持ち前の体力と体付きで甲種合格、一方大山は関東大震災の業火で重症のやけどを負って左手が不自由になっていたため、丙種合格となった。念願かなって片山は陸軍へ入隊した。もちろん大山は採用されなかった。

ヨーロッパで起こった第一次世界大戦の軍需景気で景気が良かった日本ではあったが、関東大震災の影響とアメリカで起こった恐慌の影響で国内は不景気になり倒産や餓死者などが相次いでいた。やっと収まりかけた日本の景気に影を差し始めたのが満州事変であった。


「おばあちゃ〜ん、こんにちわ。貴史で〜す」
千鶴子の家に着いて玄関先で大きな声を上げた。
「そんな大きな声で呼ばなくても聞こえるよ、貴史。さあ、中に入って」
「ゴメン、近所迷惑だったかな?」
「いいのよ、この辺は年寄りばっかりだから、ホホホ・・・」

千鶴子は今年67歳になる。元気に一人暮らしをしていた。息子の秀和からは「一緒に暮らそう」と何度も言われていたが、この深川の家を離れたくはなかった。思い出がたくさんあるからだ。

「おばあちゃん、暑いね。扇風機しかないの?」
「そうよ、クーラーは身体に悪いからね」
「ええ〜そうなの。もっと強くしてよ」
「仕方ない子ね・・・これでどう?」
ブーンと大きな音を立てて最大の強さで回り始めた。

「うん、快適!でも、音がうるさいね」
「文句言うんじゃないのよ。昔は団扇でパタパタと扇いでいただけなんだから」
「そうだね、なんかで見たことがある・・・時代劇だ」
「ちょっと前まではそうだったのよ。夏には蚊帳を吊って窓を開けて、玄関も開けて風通し良くして寝たのよ」
「大変だ、そりゃ。今に生まれてよかったよ」
「そうよ、こんな平和な時代に生まれてきて感謝しなきゃね。ところで貴史は何か聞きたいことがあるんだったよね?」
「そうだよ。修学旅行で広島へ行って、原爆の恐ろしさを見てきたんだ。ちょっと戦争のことについて調べたいって気になって、おばあちゃんにどんなことだったのか尋ねたかったんだよ」
「そう!関心ね。何から話そうかしら・・・」
「おじいちゃんは戦争で亡くなったんだよね?敵にやられたの?」
「ううん、違うの。私の傍で息を引き取ったのよ」
「じゃあ、空襲とかの怪我で亡くなったの?」