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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「夢の続き」 第一章 修学旅行

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洋子は荷物を置いてすぐに制服からジャージに着替えて周りを散歩しようと女友達二人と玄関にやって来た。偶然貴史とすれ違った。

「貴史くん!」
「洋子、早いなあ。もうジャージか」
「散歩に行こうと思ってるの。一緒に来ない?」
「いいけど、友達に悪くないかい?」
「いいよね?みんな?」洋子は一緒に行く予定だった二人に尋ねた。
「洋子、私たちは別に行くから、二人で行って来たら?」そう言われて、
「そんなんじゃないわよ!気にしてくれなくても言いのよ」そう返したが、二人は笑って手を振って先に出かけて行った。

「洋子、悪い事したな、怒ってないかな?」
「うん、大丈夫だと思うけど、帰ってきたら何か言われそう・・・」
「俺とのことでか?」
「きっとね、彼だと思ってるよ」
「嫌みたいだね、そう言われるのが」
「えっ?」
「まあいいさ、それより散歩に出かけようぜ」
「うん・・・」

洋子は貴史が何を言いたかったのか気になっていた。洋子もまた貴史と同じように友達から少し先へ意識をし始めていたからだ。小さな公園のベンチに座って夕方の涼しい風を受けながら、貴史は原爆記念館の印象を語り始めた。

「なあ、洋子。俺はここに来て考えさせられたんだ。歴史の時間に漠然としか聞いていなかった戦争の事をもう少し詳しく知りたいって。洋子はどう思ったんだ?」
「私は怖かったから良く観てないの。戦争は悲しいと思うけど、自分ではどうすることも出来ないし、何かをしなければと言う気持ちもそれほどはないし」
「それが普通だよな。女だしな。歴史より、食い気だろうから」
「酷いこというのね!女だし、って言う言い方はやめてね。バカにされているように聞こえるから」
「そうなの?悪かったな。ついつい気兼ね無しで言ってしまうから・・・気をつけないといけないな」
「ねえ?私のことどう思ってるの?」


突然のこの質問に貴史は動揺した。歴史の話が恋愛の話にすり替りそうな予感がした。

「どうって・・・幼友達だろう?」
「それだけ?」
「それだけって・・・なんだよ、お前こそどう思っているんだ?」
「好きよ」
「なんて言った?もう一度言ってくれ」
「聞こえなかったの?もう・・・言わないから」
「洋子、小学校からずっと同じ学校に通って、毎朝一緒に通学してそれが自然に感じていた頃から今は少し違って感じるんだ」
「なんかもったいぶった言い方ね・・・簡単に言ってよ」
「うん、女って感じる」
「やらしい言い方するのね、貴史ってもしかして・・・」
「もしかして?なんだよその続きは?」
「言わせるの?」
「聞くからだよ。変に勘ぐるなよ。友達より親しくなりたいって言うことなんだから」
「ねえ?覚えてる。中学のとき。私の家に遊びに来て貴史何をしたか?」
「はっきり覚えているよ。謝ったじゃないか、いまさらまた責めるのか?」
「違うのよ。今だったら嫌じゃないって言いたいの」
「嫌じゃない?俺で構わないって言うことか?」
「貴史がいいの。ずっとそう思ってきたように今は思えるの」
「洋子、俺もだ。広島に来てこんなふうに気持ちが伝えられるだなんて、嬉しいよ。死んだおじいちゃんがあの世から力を貸してくれたのかな」
「そういえば貴史のおじいちゃんって戦争で亡くなったんだよね?」
「ああ、そう聞いてるよ。詳しくは知らないけど、なんだか早くお祖母ちゃんに話を聞きたくなってきたよ。洋子も一緒に行かないか?」
「おばあちゃんの家に?」
「そうだよ。夏休みになったら」
「考えておくわ。それより、貴史からはっきりと言って欲しい、私のことどう思っているのか」
「洋子・・・好きだよ」

貴史はそう言って真っ赤な顔になった。洋子はくすっと笑って、その想いをしっかりと確認した。この年齢ではまだまだ女性のほうが大人だししっかりとしているのかも知れない。

二人は手を繋いで散歩していた。先生に見つかるときっと注意されるかも知れないとの不安も今の二人にはどうでも良かった。柔らかい洋子の手は貴史の腕を伝わり首から胸へとそして男の部分も触れられているかのような感触が伝わっていた。

嬉しさと恥ずかしさが混然となってしばらく話せなくなっていた貴史を洋子は人影のない場所に誘っていた。

「続きをして・・・あの時の」
見つめられた貴史は中学三年の夏のことを思い出していた。それは、洋子の家に遊びに行って部屋にいたとき、ふとしたことで抱きついてしまった洋子にキスをしたのだった。突然のことにびっくりして洋子は泣き出してしまった。何度も謝って、その場から飛び出していった貴史は、何故そんな事をしたのか解らなかった。気まずい思いで新学期を迎えた二人は今までのような友達という意識から少し変化が見られていた。貴史の男としての芽生えが洋子を見る目に変化をもたらしていたのだ。

明らかに胸が膨らみ、大人っぽい表情に変わっている洋子に、もう友達という感情だけで付き合うことは難しくなっていた。
高校に入って、一旦平静を取り戻したように振舞ってはいたが、この時の思いが違う形で二人の胸の中に仕舞われていたのだ。

「誰かに見られるよ」
「ここは広島よ。知っている人なんか居ない・・・はやく・・・」
もう目を閉じた洋子はそっと貴史に寄り添っていった。
「洋子・・・好きだ」
唇が重なり合う。初めての時には感じられなかった柔らかく温かい湿ったなんともいえない洋子の唇の感触が貴史を興奮させていた。

洋子は貴史の手をしっかりと握った。
「ここまで・・・」貴史の身体の変化に気付いた洋子は唇を離した。
「僕たちは今日から恋人同士だね」
「うん、私で良かったの?」
「当たり前じゃないか。もう帰ろう、食事の時間だよ」
「ロマンチックじゃないのね・・・」
「お前だって、ジャージだぜ」
「そうだった!ハハハ・・・」
「ハハハ・・・」

少し遅れて食事の部屋に入った二人を全員がじっと見つめた。
「すみません、遅刻して」頭を下げた貴史にピューと誰かが口笛を吹いた。教師に注意されて席に着いて夕食は始まった。


東京に帰ってきて貴史は頻繁に洋子とデートをするようになった。お互いの家に行っても当たり前のように振舞われるから、「僕たちは恋人同士なんです!」と宣言しない限り、家族からは何も聞かれる事は無かった。泊まって行っても、二人だけで部屋に居ても、普通に扱われていた。

あっという間に夏休みがやってきて、今年の自由研究を戦争に絞って貴史は書くことを決めていた。それは昭和が今年で終わってしまうことを知っていたかのように、後で思い出される結果となった。

「洋子、どうする?俺は8月の13日と14日に深川のお祖母ちゃん家に行くけど、一緒に来る?」
「その日は母さんの実家に行く日だから無理。ねえ、その前でもいいけど、二人だけでどこかに行かない?」
「そうなんだ。どこかに行くって、泊まるって言うこと?」
「いや?」
「俺たちまだ二年生だぜ」
「怖いの?」
「誰が?バカ言うんじゃないよ」
「じゃあ行こう」
「洋子、このごろおかしいぜ。どうしたんだよ」
「おかしくなんかないよ。貴史こそ、お祖母ちゃんの事ばかり話して、私に気がないような素振りじゃない?」