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ぼくのウルフマン

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そうなんだ。特に部活後の奥上はまさにウルフマンそのもので。つまり体臭が、汗の臭いががぼくを包んで興奮させる。
「ヌレヌレになって来たから脱いじゃえよ」奥上はぼくのズボンとパンツを脱がせてしゃぶり出す。こんな場面で誰か来たら死んでしまう。
「ぼくもやりたい」
「お前は綺麗だからいいけど、俺は汗かいて最悪だから臭くて」
「奥上の匂いを嗅ぎたい」ぼくは恥ずかしいけど言ってしまった。
「お前がいいならいいけど」
「じゃ、ここに座って」ぼくは彼を座らせて舐め始める。上手くなっただろうか。アレクスはいつもウルフマンを逝かせちゃうけど、ぼくはどうしてもうまくやれない。大きくて喉に当たっちゃうしいつも歯を立ててしまうし。それでも奥上は「凄くいい」と言ってくれる。でも最後までは逝かない。ぼくが飲んじゃうのを気にしているんだ。変なの。奥上はいつもぼくに出させてしまうのに。
 
 ぼくの描く漫画はますますエロ度が高くなってブログには「前より生々しくなりましたね」って完全にバレとる。なんかやっぱ感触とか匂いとか相手の反応だとかは想像だけでは難しいのだよね。
 
 朝、登校してすぐ丸山に話しかけた。なにせ休み時間もいつも奥上に呼ばれて最近彼女と話す暇がない(これってノロケだ)
「ここんとこ、付き合い悪くてごめん」
丸山はじろりとぼくを睨む。あわわ、どうしよう、と思ったら思い切りあかんべーしやがった。なんだ、ふざけてたんだ。
「って井伏が弄ばれてるだけじゃないならいいけどね」
わー、朝からなんてことを。「だ、大丈夫だよ、っていうか、そんなことどっちでもいいって思ってるから」
「覚悟の上ってこと?」
「そう思ってた方がいいかなって」
丸山はふうんと言って頭を振った。「で、私もね。井伏に負けじと告白したよ」
「ええっ。誰に?」
「うちのクラスのショタくんだよ」
ああ、なるほど。
「先週末、デート済みだよ」
早。
「私服もね、可愛かったよー」
そうですか。よかったです。
「私より五センチ小さいからね」
あ、そうだね。
「でもあえてヒール高め穿いて行ったわ」
なんつーSですか。その時、彼が教室に入ってきて丸山は彼の方へ行ってしまった。ちぇっ。ぼくも奥上が来たら、飛んで行く、ということはできないよな、うちらの場合は。
 
 ぼくと奥上って何の関係になるんだろう。ぼくにとって奥上は自分の妄想の恋人ウルフマンの代理でぼくは河嶋の代理になるんだろうか。丸山はぼくが奥上に利用されているのかも、というけどぼくも彼の体を利用している。だって今も体を触れあう時ぼくは彼が狼になっていると想像しながらやっている。でもそれは誰にも言えない秘密だ。
 ぼくたちはずっと体の関係を続けている。学校にいる間と彼の家に遊びに行った時に。まだどこか別の場所に行くことはない。奥上はぼくのことを「可愛い」とか言ってくれるし精液を飲まないよう気遣ってくれるけど、何故か「好き」って言葉は一度も言ってくれていない。そういうことを言うのが恥ずかしいだけかもしれないけど。それとぼくたちはまだキスとフェラと触りっこだけの関係だ。アレクスとしてはもう何度もウルフマンにバックを許したぼくだけどリアルのそれを考えるとやはり怖い。ぼくから奥上に求めるなんてとても無理だ。ぼくとしてはこのままでもいいんだけどね。
 
 ぼくと奥上が秘密の関係になって三ヶ月ほど経った頃。ぼくもちょっとばかし大胆になったのか、奥上たちが練習している間に陸上部の部室にこっそり入った。ここには戸棚でちょうど隠れられる場所があってぼくはその隅っこに潜り込んだのだ。
 彼が戻ってくるのを待っていた。奥上はいつも最後までいるみたいだから皆が帰った時、飛び出して驚かせてやろう。そう思っていたのに夜更かしが祟ったのか、いつの間にかぼくは眠り込んでいた。どのくらい時間が経ったのか争う声がして目が覚めた。
「・・・もう止めろよ、奥上」
「そんなことお前に言う権利ないだろ」
誰かの声がする。二人。奥上と・・・河嶋?
ぼくはぎょっとして、でも飛び出すわけにもいかず、二人の話を聞いていた。
「あの時のことは、もう忘れるから普通の友達に戻ろうって言ったのになんで俺を無視するんだ?」
そう言ったのは河嶋の方だった。
「無視してないよ。クラスは違うから話す暇ないし、部活ではいつも一緒に話すだろ」
「俺が言ってるのはそういうんじゃねえよ」
「じゃ、なんだよ」
「お前さ、同じクラスの井伏とかいうのといつも一緒にいるらしいじゃないか」
ぼくは息が詰まりそうだった。奥上はなんて言うんだろう。
「それがなんだ」
「なんであんな奴と?」
「あんな奴ってなんだよ」
「根暗でうじうじ何か描いてる。おたくなんだろ、気持ち悪い」
奥上が蹴ったのか叩いたのかゴミ箱かなんかのばごっと言う音がした。
「お前っていちいち何でもそう言って気持ち悪いって言うじゃねえの。俺もホモだって気持ち悪いんだろ。井伏のことまで一緒にけなすな」奥上がぼくのことを庇っている。心臓がばくばく打ち出した。
「奥上」
「うるせ」
「ごめん。違うんだ。そんな風に言うつもりじゃなかった」
「もういいよ。帰るぜ」
「違うんだ。ただ、お前がどうにかなるんじゃないかと思って」
「俺がどうなるって言うんだよ」奥上の声は少し収まった。「それにどうしたってお前はゲイじゃない。そうだろ?俺が間抜けだったんだ。お前も同じかなと勝手に思い込んで。でも、今はさ、俺」
暫く間があった。小さな声で聞こえないんだろうか。ぼくは聞きたかった。
「河嶋。お前が俺を友達だって言ってくれるならさ、秘密にしてくれよ。井伏が好きなんだ」
「本気なのか」
暫くの間がある。
「俺は、信じられないんだよ。お前がそういう風に、男が好き、だとか」
「気持ち悪いってことだよな」奥上の語尾が震えた。
また沈黙。
「それでも、俺はそうなんだ。お前が誰にも言わないでくれたら嬉しいんだけど」
少しの間があった。ひどく長く感じたけど。
「判った」
「ありがとう」
運のいいことに河嶋が「じゃあな」と言って出て行く音がした。
奥上は何も言わない。
部屋の中は静まりかえっている。泣いているのかな。奥上。
でもすぐには動けなかった。


何度もどうしようか迷った末に、ぼくは決心して棚の後ろから這い出した。
「奥上。あ、あの、ごめん。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど」
奥上は飛び上がらんばかりに驚いてでも笑い出した。
「どこにいるのかって探したのにまさか、そんなとこにいるなんて」
「ごめん、寝てた」
奥上の顔は次第に赤くなった。「じゃ、聞いたんだよな」
「う、うん」ぼくは躊躇ったけど聞いた。「さっきの言い訳、だよね。ぼくのこと好きだとか」
「好きに決まってるだろ」少し怒ったような声だった。「今までずっとやってたのに、井伏そんなこと言うなんて」
「だって奥上、ぼくのこと一度も好きだとか言ったことないよ」
「え、ほんとか?」
「そうだよ」
奥上は混乱したような顔で立っていた。
作品名:ぼくのウルフマン 作家名:がお