ぼくのウルフマン
「そうか。多分、俺心の中だけで言ってた」
「そ、そうなんだ。それじゃわかんないよね」
二人して吹き出した。
「でも井伏だって言わないじゃないか」
「ぼくは言ったよ、一度」
大声で言ったけど、一度だけだ。ぼくも心の中でしか言ってなかった。
二人は真っ赤になったまま暫く立ちつくしていた、と思う。
「井伏」
「は、はい?」
「はいなんておかしいよ」
「いいからその先言って」
「あの、好きだよ」
あのは余計だけど。「ぼくも、奥上が、す、好きだ、けど」馬鹿。けど、つけた。好きって言うの難しい。
ぼくが反省していると奥上は大きな体でぼくを抱きしめてくれる。汗の匂いがする。奥上の唇がぼくの唇に触れる。
よかった。奥上はほんとにぼくのウルフマンだった。
アレクスはウルフマンの住まいを訪ねた。「よく来てくれたね。会いたかった」
その言葉にアレクスは頬を染めた。「ぼくもだよ。ウルフ」
ウルフマンが抱きしめるとアレクスの体は折れてしまいそうに細く見える。そしてウルフマンは恋人に熱いキスをした。
「今日、お前を抱きたい」
アレクスは黙って頷いた。これから起こる出来事に心臓が早く打ち出す。
「怖いか?」
「少し」
アレクスは未経験だが仲間からそれをするのにどんな事が必要かを聞いていた。ウルフマンに嫌われたくなかったので彼はその忠告通り体を清めていた。それでも初めてのことで上手くいったかどうかが判らない。
ウルフマンに導かれて彼は寝台に仰向けに横たわった。
「見せて」
彼に言われてもぼくはどうしたらいいのか、判らない。迷っていると彼はぼくのからだをひょいと裏返して尻の割れ目を広げて見ている。
「可愛いんだね」
そんなこと言われても自分で見たこともない。
「や、やだ」
彼は何かを取りだしてぼくの穴に指を触れた。ぬるりとした感触にどきりとする。
「ローションを守のに塗る、よ」ぼくは怖くて黙って頷くしかできない。
「タ、タツ、怖い」
「ほんとにゆっくりするから。慎也。痛かったら絶対止めるから」
ぼくはただもう怖くて頭の中が真っ白だ。彼は再びぼくの穴にそのぬるぬるしたものを送り込むように動かしゆっくりそこを押し広げていく。やがて彼の指がぼくのそこに入ってきた。ぼくは叫びたいけど奥上が止めてしまうのも嫌で我慢する。痛くはないけどなんという奇妙な感覚。彼の指が一本、次第に深く入ってきてぼくはとうとう耐えきれず「あっ、あっ」という声を出してしまった。そうするうちに彼が指を動かした瞬間とんでもない快感があった。初めての時は酷く緊張して痛いと聞いたのにぼくときたらとんでもない淫乱なのか、と恥ずかしくなる。
「慎也、大丈夫?」
「うん」見ると奥上のがびんびんに固くなっている。「タツの舐めようか?」
「少しやって」
ぼくが彼のを咥えて舐めていると入れる指が二本になってぼくの中で往復した。入り口(出口?)辺りが痛い。思わず声が出てしまう。
奥上も酷く息が荒くなってて何度もぼくの名前を呼び続けている。
「も、駄目。我慢できない。いい?慎也。お願いだから」
応えてあげたいけどぼく自身にもできるのかどうかが判らない。
「いいよ。あの、でもそっとやって」
奥上の動作が荒くなってきてぼくは怖くてたまらない。でもぼくもびんびんに興奮してきてしまってる。奥上がぶるぶる震えているのを見てぼくも手伝った。さすがにまだゴムをお口ではめてあげる、なんて余裕はないけど興奮しまくってる奥上の代わりに装着してあげてローションを塗りたくった。入ってくれるといいけど。奥上がぼくにキスをする。なんか嬉しい。奥上はぼくの両脚を自分の肩に掛けて入れる場所を確認していた。奥上のがぼくの内部に入ろうと接触する。酷く怖くて自分がどうなってしまうのか、想像もできない。いつも想像してたのに。奥上は何度もぼくの入り口に入ろうとするんだけど、入らないし、ぼくは緊張と恐怖でがちがちで奥上を受け入れてやれなくて泣きたかった。その内になんとか奥上がぼくの中に少しだけ入ってきたのだけど今度はぼくの体が彼を拒絶してどうしてもそれ以上受け入れきれない。声を出すのは我慢しようと思っていたのにぼくは酷く喚いていた。奥上は入れたくて突いてくるし体の軽いぼくはいつの間にかそれに押されて移動してしまい、壁に頭をぶつけてしまう。ごんという大きな音に目眩がした。
「慎也、ごめん」奥上が慌ててぼくの頭を撫でた。
「う、うん。だいじょぶ」と言ったものの過呼吸と興奮で目の前がよく見えない。
「ごめん。痛かったら止める、って言ったのに無理して」奥上は優しい。ぼくは彼が凄く好きだと思った。
「もう一回やってみて」
「いいの?」
「それで駄目だったらいつも通りしよう」
二人でちょっと笑った。もう一回ローションを塗ってキスして、さっきより体が落ち着いた気がする。奥上のを入れてあげたい。ぼくは仰向けで彼はぼくの脚を掴んで開かせた。彼がぐっとぼくに接近すると今度は彼のがぼくの中に侵入してきた。やっぱり凄く痛い。
「しん、や。い、痛い?」
「平気だから、止めないで」嘘だけど止めて欲しくない。
最初はゆっくり動いていた奥上の腰が激しくぼくを攻めてきた。ぼくはひたすら激痛と戦う。奥上のこが好きだけど早く終わって。ぼくの切なる願いがかなったのか、思ったよりも早く奥上が爆発したのを感じて彼の動きが止まった。暫くぐったりと奥上はぼくの上に重なって荒い息をしてたけど、体を起こしてぼくの体から果てたものを抜いた。彼がごそごそ片付けているのを何となく感じながらぼくはうとうとしてしまった。
ウルフマンはぼくを見て微笑んだ。
「どうだった?初めての体験は?」
「とてもよかった」アレクスは青い目を閉じてウルフマンの逞しく毛深い胸の中に顔を埋めた。彼の荒々しい手が優しくアレクスの背中を撫でた。
「これでもう、お前は俺のものだ」
アレクスは彼を見上げて微笑んだ。何も言わなかったが答えは通じている。酷く愛しくなってウルフマンはアレクスを抱きしめた。
「慎也」
目を開けると奥上が覗き込んでいた。
「あ」
「眠ってた?」
「うん」ぼくは恥ずかしくなって体を起こした。
「痛かったの、我慢してくれたんだろ」
「でももう大丈夫だよ」
と言ってすぐあそこがずきずきする。とてもアレクスのように余裕で微笑んでられない。
「ごめんな。もうこんなに無理やりしないから」
「でも段々慣れてくるらしいし」言ってから赤くなった。またすぐやりたいみたいだ。奥上はぼくの体を引き寄せてすっぽりと抱っこしてしまった。ああ、ぼく小さいな。
「ありがと、慎也」
やっぱり奥上はぼくのウルフマンだった。