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てっしゅう
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「忘れられない」 第六章 再会

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裕司は麗子の誘いに快く席に来た。男性を挟む形で麗子、裕司、有紀と腰掛けるようになった。ママさんがニコッと笑って、「裕司さん、今日は両手に花ですね」と声を掛けると、「いや〜こんな事はめったにありませんから、最高です」と返事をした。有紀は黙っていたが、麗子が何かと話しかけていた。

「ねえ、裕司さんってお幾つですか?」
「はい、今年の誕生日で45歳です」
「奥さん居られますよね?」
「ええ、居ますよ。年上なんです、今年50になるのかな」
「へえ、そうなんですか・・・じゃあ私たちの1つ下ですね、奥様は。お綺麗な方なんでしょうね?」
「妻の一つ上でしたか・・・お若く見えますね。こちらの有紀さんは私と同じぐらいでしょうか?」

麗子は少しむっとした表情で、
「一緒よ、51歳。老けて見えて悪かったね」
「いいえ、そんな事思ってもいませんよ。有紀さんも同じでしたか・・・ビックリです。家内なんか、すっかり老けて見えますから、恥ずかしいです」
「裕司さんって、お口が上手なのね・・・ダメよ、誘っても。有紀さんはもうすぐ結婚されるんだから」

有紀は、何でそんな事まで言うの、という顔をして見せた。

「そうなんですか・・・ご結婚されるのですね。それは、おめでとうございます」
「裕司さん、残念ですじゃないの?誘えなくなったから」
「そんな・・・そんな事しませんよ。誤解なさらないで下さい」
「だって、ずっと有紀さんを見ておられたじゃない。知っていますのよ」
「それは・・・そうですが・・・こんな話信じてもらえないでしょうが、妻とは再婚同士なんです。初めて妻とあった時に、前のご主人のことを聞いたんです。自分から話した、というのが正解なんですが、その人は大阪に思っている女性が居て、妻のことを好きになれなかったそうです。仕事関係の政略結婚のような形だったらしいのですが、自分も美人に生まれていれば、こんな惨めな気持ちにならなかっただろうにと、言ったんです」
「へえ〜そんな事があったんですか・・・それでなんで有紀さんなの?」
「いや、その・・・有紀さん関西の言葉ですよね。それにお綺麗だから、妻が言っていた言葉を思い出してしまったんです。ボクには大切な人ですし、容姿で結婚なんか決められないってそう思っているのですが・・・」

有紀は顔が青ざめていた。下向いていることに気遣ったのか麗子は声を掛けた。

「有紀さん?どうされたの・・・気分でも悪くなったの?大丈夫・・・」
「はい・・・すみません。ちょっと疲れが・・・大丈夫です」
「ひょっとして・・・来たの?」
「違います。意地悪言わないで下さい。裕司さんお話中に口を挟んでしまってごめんなさい」
「いえ、構いませんよ。今度は有紀さんのこと聞かせてくださいよ」
「私は・・・独身でしたから、お話しするような刺激的な事はなかったですよ。新幹線の中で麗子さんとお知り合いになったことが、一番の刺激的なことですわ」
「有紀さん、仕返しね・・・ハハハ、大丈夫のようね。時間が来たら、宿まで私が車で送るから安心して」
「そんなこと、タクシーで行きますから・・・」
「遠慮しないで。せっかくお友達になれたんだから」

裕司を挟んで1時間ほど唄って話をしていた有紀であった。こんな所で、よく似た話を聞くなんて・・・なんと言う偶然だろう。そういえば、明雄が勤めていた自動車部品会社は刈谷市だったような気がする。麗子もまた有紀に何かを教えるために出会えた一人なんだろうか・・・

カラオケ喫茶を出て送ってもらう車の中で、さっき裕司が話した事を麗子はさらに聞いた。
「ねえ、有紀さん、裕司さんの奥さんって、前のご主人の浮気が原因で離婚されたのかしら」
「そんな感じには取れませんでしたけど、想っておられる女性が居るのに、何故結婚されたんでしょうね、違う方と・・・」
「仕事をしているとね、男は出世欲があって、エリートだとどこそこの部長のお嬢さんだとか、上司の知り合いだとか言って、お見合いを勧められるそうよ」
「そうなの・・・力関係なのね、男の方の世界って、いつも」
「そうね、悲しいわね。断ったら・・・脱落するものね。家はね、恋愛結婚だったからそう言ったことは無かったけど、子供が出来て、何年も経つと冷めちゃうのかしら・・・関心がなくなって来ちゃったわ。カラオケなんか行くとそこだけで仲良くされているカップルがあるから、それも楽しいのかと、思ったりするの。有紀さんのようにラブラブだと解らないでしょうがね」
「私はこの年になってこんなに恋愛している事が不思議なの。若い頃に我慢していたのでしょうね、多分。本当は晩熟で純情なんかじゃなく、隠れていただけだった気がするの」
「彼と逢えたから・・・そう感じるようになったのね?男と女って年じゃないからね・・・」
「恥ずかしいですけど、否定できませんわ。身体はオバサンでも心は乙女みたいに輝いているんですもの」
「面白い表現ね、まだオバサンじゃないわよ!少なくとも有紀さんは・・・同じ年の方で今あなたの着ているような服装している方のほうが少ないもの。私本当に刺激を受けたの、あなたから。ちょっとエステに通って頑張らないとって思うわ」
「それは素敵ですね。若くなってご主人と二度目の恋愛をなされたら・・・」
「二度目のか・・・それもいいかもね。言っちゃあ悪いけど夫は結構昔はイケメンだったのよ。いつか会わせるね」
「はい、期待しています」
「明雄さんは、きっとイケメンなんでしょうね・・・あなたとお似合いの」
「どうでしょう・・・私にはイケメンですが」
「うまい事言うのね、ハハハ・・・」

車は間もなく岡崎市内に入って行く。

「着きましたね。こちらでよかったのですよね?」
「はい、ありがとうございます。助かりました。またご連絡しますので、会いましょう。大阪にも来て下さいね」
「ええ、ありがとう。実家があるからこれからはあなたに会いに行く楽しみも増えたわね。素敵よ、有紀さん・・・あなたは誰にも負けてない。自信持って彼と仲良くして下さいね」
「麗子さん・・・そんな・・・なんだか泣けてきちゃいました・・・」

麗子は有紀が泣き出したので肩をそっと抱いて少しの時間別れを惜しんだ。麗子の目にも涙が少しにじんでいた。

自分は幸せな女だとつくづく感じていた。母を失い、仕事を失い、遠くには婚約者の明雄を失い、孤独になっていた事を思うと。去年秋の妙智寺への旅行が今のすべての始まりだったこと。そして32年間の時の空白を埋める結果となったこと。その間に仁美と知り合い、裕美と知り合い、森夫婦と知り合い、そして待ち焦がれていた明雄と出逢えた。

今こうして身体を寄せ合っている麗子もこれからの自分にとって大切な友人の一人になってゆくのだろう。そう思うと、涙が次から次へと頬を伝わって落ちてゆく。

「有紀さん・・・いろいろあったのね。でも、幸せになれるんですもの、泣いちゃイケないわよ。女はね顔で笑って心で泣かなきゃ・・・それは男か?ハハハ・・・間違っちゃったわね。苦しい事があったら我慢しちゃダメよ。何でも私に話しなさいね。大阪なんか飛んでゆくから・・・今日会った仲だけど、一番のお友達よ、有紀さんが。じゃあね、元気で・・・」