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てっしゅう
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「忘れられない」 第六章 再会

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「えっ?51歳なんですか・・・そちらの方に驚きました。お若く見えましたから・・・私と同じ年ですね、嫌だわ・・・」
「私は始めから同じぐらいの年齢かと思っておりましたよ。27年生まれですよね?」
「ええ、そうです。辰年です。失礼ですが・・・離婚されたのですか?それともずっとお一人でしたの?」
「恥ずかしいですが、ずっと一人でしたの。予定では来年結婚致しますが・・・まだ予定です」
「へえ・・・来年ね。じゃあ、新婚さんになられるのね!」
「そういう事になりますね・・・なんだか恥ずかしくなってきました。いまさらと思いますが、やってゆけるかなって少し不安です」
「羨ましいなあ・・・新婚か。今はラブラブなんでしょうね?」
「そんな事はないですよ。離れて生活していますから。私は大阪、彼は名古屋ですから」
「遠距離なんですね・・・じゃあ今から逢いに行くわけだ!なるほど・・・岡崎でご一緒に泊まられるのね」
「いいえ、彼は来ませんの・・・多分。仕事が忙しいと申しておりましたから。明日日曜日の帰りに逢って帰ろうかと、考えております」
「あらそうなの・・・お寂しいわね。どんな方、彼さんって?」
「ええ、そうですね・・・4歳上なんです。彼はバツ一ですが子供は居ません。男一人暮らしでしたから、色々とあったでしょうが、今は真面目に暮らしているようです。普通ですよ」

有紀はそう言えば明雄の写真がないと思った。明日逢ったら携帯で撮って保存しておこうと決めた。

「有紀さんのように綺麗な人はもてたでしょうね・・・随分と男性を泣かせたんじゃありませんか?」
「いいえ、とんでもない。晩熟でしたから・・・その彼は32年前に付き合っていた人なんですよ。色々あって、やっと探し当てたんですの。そのお手伝いをなさってくれたのが今日会いに行くご夫婦さんですの」
「へえ・・・ロマンチックね。32年ぶりの恋が実ったのね?奇跡だわ・・・あなたが独身を貫いて、彼も独身に変っていて、そして出会い結婚する・・・映画のストーリーみたいね」
「考えるとそうですわね。自分の中では諦めかけていた気持ちに火がついただけの事なんですが、ここに来るまでに短い時間でしたがいろんな事がありました。とても悲しい事もあって、勇気付けられたりしました」
「人生って自分が叶えるって決めていれば、その通りになって行くのよね・・・もういいやって感じたり、ここまでやったんだからと諦めたりしたら、そこまでで終わるのよね。素敵だわ、有紀さん。応援させてもらいますね」
「麗子さん、ありがとうございます。初めてお会いした方にこんな話しまでして、なんだか申し訳なかったですね」
「構いませんのよ・・・私も嬉しかったのよ。機会があったらこれからもお会い出来るといいわね。そうだわ、岡崎へは何時までに行けばよろしいの?」
「ええ、特に約束はしておりませんが、夕飯に間に合えばギリギリ大丈夫かと思います」
「じゃあ、刈谷で一緒に降りましょうよ。昼ごはん食べて、カラオケにでも行きません?お嫌いですか?」
「そんな事はありませんが・・・お邪魔ではないのですか?」
「いいのよ、暇だから。家もね夕飯までに帰ればいいのよ。二人暮らしなんですから、チャチャッとご飯作って、おしまい・・・ハハハ。そんなものよ、この年の夫婦なんて」
「そうなの・・・なんだか、寂しいですわね」
「寂しくなんかないのよ。毎日顔見ているから・・・飽きるだけなの、ハハハ・・・」
「嫌ですわ、麗子さん。夢を消すような事仰らないで下さい」
「そうだったわね、ゴメンゴメン・・・」

笑い声が車内に響く。列車は間もなく名古屋に着いた。

有紀は新幹線で知り合った麗子と名古屋駅から刈谷まで東海道線を乗り継いでやって来た。駅前の再開発で大きなホテルが建ちトヨタお膝もとの玄関口といった街であった。駅前に立つ名鉄ステーションホテルは2005年に発覚する姉歯建築士設計によるホテルだったので、後年取り壊され再構築された。

麗子はタクシーで自宅まで行き、自分の車に乗り換えて有紀と一緒に良く行くうどん屋に入り、冷麦を一緒に食べた。「暑い時はやっぱりこれよね、ねえ有紀さん?」有紀もそう感じていた。

カラオケ屋はそこから車で五分ぐらいの川沿いにあった。看板も出ていない隠れ家的な存在を漂わせている場所であった。時々麗子は夫とここへ来て唄っているらしい。出迎えたママさんが「こんにちはいつもありがとうございます」と挨拶をした。数人の男性客が歌っていて明るく綺麗な場所であった。二人は真ん中の空いている席に腰を降ろし、コーヒーを注文した。麗子はハンドバッグの中からここの店の歌うチケットを出して、有紀に渡した。

「はい、これチケットよ。唄って頂戴」
「私は歌えないわ・・・麗子さん聞かせて」
「そうなの?なんか唄ったら?」
「いいの、聞いているだけで・・・気にしないで」
そう言った次の瞬間、聞いたことのあるイントロが流れ始めた。ピアノソロから始まる、そうだあの曲「愛のあなた」が流れ始めたのだ。ママさんの声で、「では、ゆうじさんで、愛のあなた、入ります」

忘れかけていた切ないメロディーが有紀の心の中に入ってゆく。じっと聞いていたが、歌っている人はとても上手だった。甘く透き通った声で歌っている。サビの部分で有紀は一緒に口ずさんだ。「何故こんなに悲しいのか♪何故こんなに切ないの♪その微笑み見えていても、声もかけられない♪夢の中に隠しながら触れる・・・愛のあなた♪」

「有紀さん、この歌知っているの?私は初めて聴くけど」
「ええ、とても思い出があるの・・・懐かしいわ」歌い終わった男性が、傍に来て、
「ご存知なのですね、ビックリしました。とってもマイナーな曲なのでまさかご存知だとは・・・裕司と言います。初めまして」
「はい、有紀と言います。とてもお上手で聞き惚れてしまいました。ありがとうございました」

裕司と名乗る男性は40代後半ぐらいで痩せ型のとってもハンサムな容姿をしていた。

「ねえ有紀さん、とっても素敵な男性ね・・・あなたの方ばかり見ているわよ、きっと気があるのね。どうする?」
「えっ?何をどうするっていう事ですか?」
「何言ってるのよ、解ってるでしょ?こちらの席にお誘いしてお話しをするのよ」
「そんな・・・失礼ですよ、厚かましいし・・・それに、お解かりでしょ?私の事は、話しましたよね」
「真面目なのね・・・ここは社交場よ。ひと時の男女で終わればいいのよ。明日は大阪へ帰るんでしょ、追いかけてなんか来ないわよ、ハハハ・・・」
「もうそんな事簡単に言って・・・私は嫌ですから、麗子さんお話になられたらよろしいですわ」
「そう?戴いちゃっていいのね」
「まあ、なんていい方・・・ついて行けませんわ」

有紀は麗子の積極的なところを見せられてしまった。ご主人がいると言うのになんていう事をするのか・・・本気じゃないのだろうが、知っている人が見たら誤解を受けると有紀には思えた。