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てっしゅう
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「忘れられない」 第六章 再会

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「お父さん、お母さん、良かったね。私は少し不幸だったけど、こちらで幸せに二人を見ているから安心して。今度こそ仲良くするのよ・・・有紀さん、お幸せに。あなたにあえて本当に良かった。裏切るようなことをしてごめんなさい。いつの日かこちらで逢えたら謝ります。裕美は幸せな娘でした。もう思い出さなくて良いから自分たちの幸せを楽しんで暮らしてください」

レストランでの4人を見て裕美からそう言われたような感覚に襲われた。有紀は天井を見やって、心の中で返事した。

「裕美さん・・・もう解放されるわよ。苦しまなくて良いのよ。安田さんも仁美さんもきっと幸せになる。あなたのおかげよ。いつかそちらへ行ったらまたあの頃のようにたくさんお話しましょうね。あなたに逢えて本当に良かった・・・」

「有紀さん!何かぶつぶつ言ってないですか?どうしたの」仁美はそのしぐさを見て笑いながら聞いてきた。明雄もそうだよ何言っていたんだと同じように聴いた。

「あら、聞こえたかしら・・・独り言を言うようになったらおしまいね、年寄りの証拠だわ、ハハハ・・・」
「ごまかさないで。何を言っていたの教えて?」再度仁美は念を押した。

「裕美さんにね、もうゆっくり休んで、って言ったの。仁美さんと安田さんが幸せになるから安心して・・・って。私もあなたに逢えた事が嬉しかったって・・・そう言ってあげたの」

あんなに笑顔で歓談していたのに、有紀のこの一言で、仁美の目から涙がこぼれてきた。
「有紀さん・・・あなたって、そこまで私たちの幸せを喜んでくれているのね。明雄さんは本当に幸せな人だわ。30年も待っていてくれる人が居て、それもこんなに優しく、美人で・・・有紀さんを裏切ったりしたら私が絶対に許しませんからね」

安田は、自分が保証人になるよ、と有紀に明雄の人柄を褒めた。明雄は強い責任感を胸に借金を返すことを誓っていた。早くここへ戻って来たいと、みんなの前で宣言した。


明雄は日曜日の午後に名古屋へ帰っていった。二日間だったが一緒に暮らした部屋は今日から独りになる。仁美がいつか言った「忘れられない思い」というのが解った。この寂しさなんだろう、温もりが欲しいと感ずるこの気持ち。今まで感じたことが無い逢いたい・・・いや、抱かれたい、と思う感情といったほうが早い。

仁美は安田と暮らしているから今までそう感じてきた思いも、今は無いだろう。逆転してしまったかのように、有紀は時々襲われる。「一年の辛抱よ・・・こんなことで我慢し切れなかったらこの先もっと寂しく感じられるときに乗り越えられないわ。仕事を見つけて紛らわそうかな」気持ちを切り替えて、明日から職探しをやろうと決めた。

世間の景気は悪くは無かったが、なかなか50過ぎの募集は見当たらなかった。ハローワークも結構混んでいて、長い順番待ちをして結局面接すら受けれなかったりした。チラシ広告の募集に電話をしても、「履歴書を送付してください。その後返事させて頂きますから」と言われ、何度送っても返されてくるばかりだった。確実に若い頃とは事情が違っていたのだ。

あせらず探そうとマイペースにしていたが、明雄に逢えない寂しさも手伝って、三ヶ月もすると気が滅入ってきた。森さんへのお礼も兼ねて岡崎に行こうと思い始めていた。明雄にメールを入れる・・・「近いうちに岡崎に行きます。その時に逢って下さい。有紀」返事が来る。
「決まったら教えて・・・平日は会えないよ。夜か日曜日にして欲しい」明雄は土曜日に残業を入れて稼いでいると言っていた。有紀は顔が見れたらそれでいいと思っていたから、森さんの都合に合わせて土日で出かける予定にしていた。

明雄は月に一度日曜日に有紀に逢いに泊まりで来ようと予定していたのだが、費用のことや仕事が忙しいことなどで中断していた。そのことも有紀の名古屋行きに火をつける原因となった。
森夫妻には本当に世話になりっぱなしだから、今回は自分がお世話しようと考えていた。洞口さんの旅館に招いて三人でゆっくり話をするのがいいかなあ、と計画を練った。

季節は暑い夏に変っていた。梅雨が明けて真夏の日差しが照りつけるようになった7月の下旬に有紀は出掛ける準備を始めた。仁美は誘わずに自分ひとりで出かけようと直前まで話さなかった。いよいよ明日と言う時になって、「安田さん、ちょっと出かけてきます。土日と留守しますので何かあったら携帯へ連絡してください」とそう言付けた。

仁美は「どこへ行くの?」と聞いてきたが、「明雄さんに逢いに行くだけ・・・」とごまかして、出かけることにした。洞口さんの処に泊まると言ったら、「一緒に行きたい」と言いかねないからだ。安田さんの手前今は誘いにくい。帰ってきてから、会ったことを話そう・・・そう考えていた。

朝から真夏の日差しが照りつける土曜日の朝、有紀はポロシャツにジーンズ姿で日傘を差して家を出た。小さなボストンバッグには、明雄への土産を一緒に詰めていた。一人生活で不自由しているだろうと、デパートで買った半そでのパジャマを土産にしていた。実は同じ柄のものを自分も今、着ている。明日からは明雄と同じものを着ていると寝る時に実感できる。そんな小さなことでも嬉しいと感じることが出来るのだ。

夏休みに入っていて新幹線は混雑していた。二人掛けの席には偶然同年代の女性が座ってきた。どうやら自分と同じ一人旅の様子である。列車が動き始めて検札が終わった時間に何となく目が会って、話し始めた。
「こんにちわ・・・お一人ですか?」有紀は尋ねられた。
「はい、そうですが・・・どちらまで行かれますの?」
「名古屋です。お宅は?」
「ご一緒ですね。少し先の岡崎まで参りますが・・・」
「そうでしたの・・・偶然ですわね。私は岡崎の手前の刈谷まで行きますのよ。乗り換えしてからもご一緒出来ますね」
「ええ、ご縁ですね。ご旅行ですか?」
「いいえ、自分の家なんですよ。実家からの帰りなんです。失礼しました、名前は近藤と言います。麗子です」
「こちらこそ、埜畑有紀と言います。お世話になった方へのお礼も兼ねて旅行なんです」
「埜畑さん・・・有紀さんで構いませんか?」
「はい、構いません。私も麗子さんと呼ばせていただきます」

麗子はよく見ると色白の綺麗な女性だと有紀は思った。話はお互いのことを尋ねるようになった。

「有紀さんは岡崎にお知り合いが居られるのですか?」
「はい、この年明けに色々とお世話して頂いたご夫婦が住んでらして、お礼を申し上げる事が出来ませんでしたのでそのことも兼ねて来ましたの」
「そうでしたか・・・どちらへお泊りですか?」
「ええ、岡崎の洞口さんという民宿をされているお宅へ泊まらせて頂きます」
「素敵ですわね。そんなお知り合いが居られて・・・私は大阪から嫁いでもう何年かしら・・・夫は自動車関連の仕事をしておりまして、娘が昨年結婚しましてこの秋に孫が生まれる予定なんですよ。有紀さんのご主人は何をされていますの?」
「お孫さんですか!それは楽しみですね。私はまだ独身なんです。驚かれるでしょうね・・・51歳にもなっているのに」